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インタビュー
株式会社ジェイ・エム・エス/サージカル&セラピー ビジネスユニット 血液浄化部 部長
山下 哲以(やました てつい)さん
自宅で透析ができる自動腹膜灌流装置を開発


―DXに対応した自動腹膜灌流装置「APD装置PD-Relaxa」を2023年11月に発売しました。自動腹膜灌流装置とはどのような医療機器なのでしょうか。
 当社は医療機器、医薬品の製造・販売・輸入・輸出を手掛ける会社で、1965年の創業以来60年近くに渡って医療の進歩に貢献してきました。
 自動腹膜灌流装置というのは、腎不全の患者さんが在宅で行う「腹膜透析療法」を支援するための装置です。腎臓が慢性的に機能不全に陥っている方は、腎臓の代わりに血液中の余分な水分や老廃物を取り除くため透析治療を行わなければなりません。
 透析治療にはコンソールと呼ばれる装置を使用して、血液回路とダイアライザー(透析膜)を介して血液中の余分な水分や老廃物を除去する「血液透析」と、おなかの中に透析液を入れて体内で浄化する「腹膜透析」の2種類があります。さらに腹膜透析に関しては、腎機能に応じてですが、透析液バッグの交換を1日に4回程度繰り返す「連続携行式腹膜透析(CAPD)」と、夜に寝ている間に自動で透析を行う「自動腹膜透析(APD)」があります。
 自動腹膜灌流装置は夜中に自動で腹膜透析を行う装置で、設定した条件に基づいて自動的に透析液を体内に注入・排出を行い、夜寝ている間に自宅で透析ができるため、日中の時間を有効活用できるメリットがあります。
自宅で透析ができる自動腹膜灌流装置「APD装置PD-Relaxa」
―「APD装置PD-Relaxa」は従来機と何が違うのでしょうか。
 大型タッチパネルの採用、透析液バッグの置き位置の変更、静寂性の追求などによるユーザビリティの向上に加え、遠隔通信機能を搭載しました。毎回治療が終わるたびに、治療結果が自動でクラウド上の専用サーバ「Relaxaリンク」に転送され、医師は汎用の情報端末やブラウザを使って、遠隔で治療結果をモニタリングすることができます。このシステムによって医師は患者さんと離れていても、本装置で行われた治療結果や治療設定の評価ができるようになりました。
 また、もし医師が治療結果を見て装置の設定を変更した方がいいと判断した場合は、同じく遠隔での設定の変更が可能です。医師が新たな設定値データを作成して専用サーバにアップすると、次回この装置の電源がONになった時、新しい設定値データを受信し、装置の設定が自動で変更されます。変更の内容はタッチパネルに表示され、患者さんがそれを確認してOKを出せば、そのまま新たな設定で装置が稼働するようになります。
大型タッチパネルが搭載され操作性もアップ
「Relaxaリンク」を利用することで、遠隔通信による患者さんからの治療結果の送信や、医師からの治療条件の変更が可能に
従来機と比べてどんなメリットがあるのでしょうか。
 以前の機械では月に1~2度、治療結果のデータが入ったSDカードを病院に持って行き、医師はそれを開いて過去の透析状況を確認する必要がありました。そのやり方だと、もし設定の変更が必要になった場合でもしばらくの間は元の設定のままです。それが今はリアルタイムで検査結果がわかり、リアルタイムで設定変更できるので、素早い対応が可能になりました。
 医療関係者からは常に患者さんの状況がわかって安心できると好評です。腹膜透析をするたびに患者さんのトレンドがリアルタイムで送られてくるので、即座に状況を把握できますし、何かあったらすぐにアドバイスができる。医師からも「患者さんの体調管理がしやすくなった」と言われます。また、患者さんが操作ミスを起こした際もクラウドに情報が転送されるので、弊社のサービス窓口の人間がすぐにサポートに向かうことができます。
他にどのような機能がありますか。
 本装置は体温計、体重計、血圧計と近距離無線通信「Bluetooth(ブルートゥース)」で接続され、各種バイタルデータが自動で記録される仕組みになっています。そのデータも透析結果と同じく自動でクラウドに転送されるので、医師はバイタル情報も合わせて患者さんの体調を判断できるようになりました。
 これまで体温や体重は患者さんが自分で記録しなければならず、通院の際にSDカードと一緒に提出して、医師はSDカードのデータとその手帳を照らし合わせる作業を行っていました。測定データの記帳を省力化することで患者さんのQOLも向上しますし、医師による患者さんのデータ管理作業も軽減されました。
「APD装置PD-Relaxa」の開発に至る背景を教えてください。また開発で苦労した点はありますか。
 2022年12月末時点において、慢性透析患者の数は約35万人。このうち在宅医療を行っている腹膜透析患者は1万人強います。私たちは開発を行う前に現場視察と市場調査を行い、「患者さんだけでなく介助者にとっても使いやすい装置」「高齢者でも簡単に操作できること」の重要性に気付きました。そして患者さんやその家族、介助者、医療関係者、JMS社員すべてにとって使いやすく、それぞれの負担を軽減するストレスフリーな装置を目指しました。
 その中で、クラウドを利用した遠隔モニタリングシステムの導入は弊社にとって初めてだったため、構築には苦労しました。おまけに外部のシステム業者に依頼した場合、コストと開発日数の面で折り合いがつかず、JMS社内での開発です。医療データは重要な個人情報であり、人の生命にかかわるためサイバーセキュリティの徹底は不可欠です。安全性担保の問題は情報の機密性が高いクラウドを選択することで解決しました。
他にもDXを活用した製品はありますか。
 2022年9月には心電図の測定ができる携帯型心電計「myBeat ホームECG」を発売しました。心電図は心臓の異常を早期に発見することができる重要な検査です。健康診断で体験された方も多いと思いますが、通常の心電図検査は患者さんが病院のベッドに横たわり、胸や手首、足首などに電極を貼り付けて行います。
 しかしこの心電計は機器の横に付いている金属部分にたった40秒、左右の人差し指を当てるだけで心電図測定が可能です。また、「APD装置PD-Relaxa」同様、測定したデータはBluetoothを通して専用のクラウドシステムに送られ、専門医が遠隔で解析できます。これにより患者さんの心臓疾患の早期発見や発症リスクの軽減が可能になりました。
 さらに進化したのはデータの管理です。送られた心拍数データは患者さんごとに管理されます。事前に心不全傾向や冠動脈疾患傾向の条件を設定しておけば、スクリーニングして注意が必要な患者さんを自動で絞り込むことができます。データを時系列にして並べてグラフで表示することもできますし、「Relaxaリンク」と連携すれば透析状況、血液検査、薬剤情報と合わせた状態確認も可能です。データがすべて紐づいているため、医師からは患者さんのデータの管理がしやすくなったという声をいただいています。
携帯型心電計「myBeat ホームECG」(写真左)。測定したデータのスクリーニングなども可能で管理がしやすい(同右)
最後に今後の展望、そして県民へのメッセージをお願いします。
 高齢化社会が進む中、自宅で治療を受けることのできる在宅医療のニーズはさらに高まっていくと思われます。在宅医療が浸透すれば患者さんのQOLも向上しますし、医師の負担も軽減されます。オンライン診療が実現したことで、通院が難しい人や病院に行く時間がない人も自宅で医師の診察が受けられるようになりました。
 そうした環境を作り出すためにも医療DXの導入は欠かせません。私たちは「患者様第一主義」を掲げ、少しでも患者さんが快適にすごせることを目指しています。今後も医療DXによりさまざまなサービスが出てくると思いますが、県民の皆様には身近に利用できそうなサービスを見つけて、日々の健康維持にご活用いただければと思います。
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