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インタビュー
株式会社ソラジョウ/代表取締役
北村 聡(きたむら そう)さん
株式会社LILE THE STYLE/介護事業所管理者
谷川 実(たにがわ みのる)さん
420種のアプリ開発 介護DXを推進
―ソラジョウさまの事業内容を教えてください。
 北村 株式会社ソラジョウは、医薬品販売事業、調剤薬局事業、介護事業、ITソリューション事業を展開するNHホールディングス(府中町)のグループ会社です。1971年に医薬品販売会社としてスタートしたNHホールディングスは、医薬分業の流れから90年に広島市や呉市で調剤薬局の運営を開始しました。その一環で福祉施設での訪問服薬サービスに携わったのをきっかけに、2013年に介護事業に進出しました。「人材が足りない」「離職率が高い」「残業が多い」「給料が安い」といった介護業界の課題をITによる業務改善で解決できないかと、15年に株式会社ノースハンドを設立し、ITソリューション事業に着手。介護施設向けの情報システムを次々に開発してきました。ソラジョウはこうしたシステムの普及を目指す販売会社として22年に設立し、現在は広島をはじめとする西日本を中心に営業活動を展開しています。
ソラジョウの代表取締役・北村さん(写真左)とLILE THE STYLEの管理者・谷川さん(同右)
―23年に提供を始めた「かいごのコンパス」とはどういったサービスでしょうか。開発のきっかけや狙いも教えてください。
 北村 介護事業者を対象に、業務改善や効率化を図るための約420種類のアプリを定額制(月額使用料5万円〜)で使えるクラウドサービスです。社員台帳、施設管理、営業管理など、介護の現場とバックオフィスに必要な機能を備えています。
 従来の介護事業者向けのクラウドサービスはケアプラン、ケア記録、請求の三つの機能が中心で、初期投資に数百万〜1千万円かかるなど、費用が高額でした。しかも、営業管理や人事・採用管理など、介護事業者の組織運営に適したソフトはありませんでした。ノースハンドでは、介護事業者による施設経営や組織運営に特化したシステムを形にしようと、システムエンジニア(SE)4人が16年から5年間、1億円かけてアプリの開発に取り組みました。
 完成した約420種類のアプリには、社員台帳や採用案件管理などの基幹業務向けアプリ、部門別管理会計や営業管理などの経営管理向けアプリ、入居管理や日報、事故報告、議事録管理などの介護現場向けアプリなど、既存のパッケージシステムではカバーしきれなかった機能がそろっています。
「かいごのコンパス」サイト https://kaigonocompass.jp/
―どんな点を工夫しましたか。特長や魅力を教えてください。
 北村 「かいごのコンパス」のプラットフォームサイトでは、基本コースをはじめ、人事、総務、経営管理、介護施設など七つのコースを設定しており、各コースには領域に応じたさまざまなアプリを用意しています。その上で、各介護事業者・事業所が抱える悩み事や困り事から適したコースやアプリを探せる仕組みになっています。例えば「介護施設の稼働率を上げたい」といった場合は介護コースの入居管理アプリ、「職員のキャリアアップを支援したい」場合は人事コースの目標面談アプリが提示され、導入スケジュール例も示されるなど、具体的な解決方法がイメージできなくても、課題から解決のためのアプリにたどり着けるよう工夫しています。
 「かいごのコンパス」のアプリは、IT企業のサイボウズさま(東京)のクラウド型業務支援ソフト「kintone(キントーン)」を使って開発した点も大きな特長です。キントーンはプログラミングができなくても情報共有システムを作れるため、介護事業者や介護施設の職員がアプリをカスタマイズできるメリットがあります。それぞれの介護事業者や施設の状況に応じてアプリをフィットさせることができるため、業務のDX化が進展しやすくなります。
「かいごのコンパス」のポータル画面
―ライル・ザ・スタイルさま(ライル、広島市東区)では「かいごのコンパス」をどのような理由から導入し、どのように使っていますか。
 谷川 NHホールディングスのグループ会社として、サービス付き高齢者向け住宅「ケアビレッジライル温品」などを運営する当社は、介護記録や計画書をはじめとする書類のペーパーレス化や情報管理の効率化を図ろうと、20年9月頃に「かいごのコンパス」を導入しました。職員にタブレット端末を支給し、出納関連のアプリから始めたのですが、当初はITへの苦手意識から操作に苦労しました。しかし、ノースハンドのSEによる講習会や電話での指導のおかげで半年もたたないうちに使いこなせるようになりました。その後は入居者や職員の個人情報や経費精算を管理したり、採用案件の整理や経営分析を行ったりするアプリを利用するようになりました。現在は約30種のアプリを活用しています。
サービス付き高齢者向け住宅「ケアビレッジライル温品」
 北村 導入に当たってはアプリの使い方を事前に学習しておく必要があります。そのため、アプリ導入前には1、2カ月間の基礎研修を実施。キントーンの基本構造を理解し、操作方法やカスタマイズ方法などが身に付くよう指導しています。すでに導入している施設への見学会も開き、例えば個人情報の管理や経費精算が効率的に行われているといった利便性や効果を実感してもらっています。
 このほか、中小企業や小規模事業者を対象にした国のIT導入補助金があり、補助率1/2以内で5万円以上150万円未満の補助が受けられます。例えば「かいごのコンパス」で月額10万円のコースを利用し、補助金申請が認められた場合は、年間120万円の使用料の半額が補助されるのでコストを削減できます。
kintoneなどの使用方法について、エンジニアが介護事務へ使い方をレクチャーしている様子
導入スケジュール例
どんな効果がありましたか。利用者の声なども紹介してください。
 谷川 例えば入居管理のアプリでは、バラバラに管理されていた入居者の年齢や家族構成などの基本情報や要支援・介護度、過去の病歴や直近の健康状態などを一元管理できるようになったのが大きいですね。介護やケアの状況や家族との面談結果も記録し、職員が共有できるので引き継ぎに困ることもなくなりました。さらに、入居者からのクレームや要望を記録できるアプリや、入居者に提供したおやつの購入先や評判を記録するアプリまであり、サービス改善のヒントになりました。
 親の入居を検討している家族にとりわけ好評なのは、入居費用シミュレーションのアプリです。要介護度などから介護保険自己負担金や医療費、入居基本使用料などを算出するもので、「敷金や家賃、サポート費など、入居に当たって費用がどのくらい必要か明確に分かるので安心」と喜ばれています。導入前は職員が自ら試算していたため時間がかかっていました。
現場の介護スタッフが「かいごのコンパス」のコンテンツを使っている様子
 北村 管理会計アプリでは、部門ごとの売り上げの推移や目標達成率などがグラフや図表で表示され、月ごとに情報を蓄積することで、幹部や管理職が経営状況を正確に把握できるようになります。介護業界では小規模な事業所が多く、経営リーダーだけに情報が集中してしまう傾向にありますが、このアプリを通じ、経営情報を幹部や管理職が共有できるため、客観的で公正な意思決定が可能になります。このほか、介護職員一人一人の普段の仕事ぶりに関しても、入居者から集めたアンケートを集計するアプリや、施設内で起きたヒヤリハット事象や事故報告を職員と管理者で共有する「ヒヤリハット」アプリもあります。「いつも笑顔で親切」「普通」「もっと親切にしてほしい」といった項目をグラフ化し、人事評価や人材育成に生かすこともできます。
 谷川 職員たちはいろいろなアプリを使えるようになると、「こんなことができないか」「こんな機能を加えられないか」とアイデアを出し合うようになりました。その結果、入居管理アプリに、入居者の写真をストックできるアルバム機能を追加。貯まった写真をCD-ROMに保存して家族にプレゼントすることで感謝されたこともありました。

「デイサービスの売上日報」アプリのグラフイメージ
「ヒヤリハット」アプリ一覧のイメージ
施設の運営はどう変わりましたか。現状の手応えはいかがですか。
 谷川 「かいごのコンパス」のアプリをサービスの改善に生かすことで、入居者や家族の満足度がアップしたと思います。その結果、「ケアビレッジライル温品」への入居率が上がり、22年以降、入居者は25人と満床の状態が続き、待機者も増えています。しかも、入居者や家族からのクレームが減った分、職員は介助や事務などの本来業務に集中できるようになり、さらなる改善につながっています。入居率も業務効率も高まったため、22年から2年弱で売り上げは1.6倍になりました。
 北村 ライルの経営幹部の話では、ライル全体では採用面で変化があり、社員の人的ネットワークで人材を紹介・推薦する「リファラル採用」が74%に達しています。ライルをよく理解している社員の紹介であるため、ミスマッチが少なく、定着率が上がります。経営層と社員との信頼関係が築けているからこその成果だと考えています。アプリの使用により、ペーパーレス化も進み、複写機の使用料が月4万円、年間では約50万円削減できました。
 谷川 入居者の転倒などのアクシデントが起こった際も、状況などの記録もアプリに残せ、「この場所で転倒する入居者が多い」「入居者がこんな状態の時につまずきやすい」といった傾向をつかめるため、転倒防止の対策にも役立てています。
今後はどんな点に力を入れますか。県民へのメッセージもお願いします。
 北村 新しいアプリの開発を進めます。一例が、施設や居室内に人工知能(AI)を搭載したカメラを設け、入居者の生活状況を撮影した動画を分析するアプリです。生活パターンを分析し、「体が右に傾いている」とか、「立ち上がるスピードが落ちてきた」といった微妙な体調の変化を読み取り、より適切な介助の実践を支援していきたいと考えています。加えて、開発した全てのアプリの操作方法や機能を紹介する動画を製作し、「かいごのコンパス」のプラットフォームサイトに公開する方針です。現在はまだ10種類程度ですが、続々とアップしていきます。
 谷川 介助記録を蓄積できるアプリを使って、職員一人一人の介助スキルを分析できないか検討中です。例えば入浴介助に優れた職員の長所を分析し、他の職員が共有できれば、能力の平準化や能力アップにつながります。より質の高いケアやサービスを提供することで、地域福祉の向上に貢献していきたいと考えています。
 北村 全国統計では23年時点で65歳以上の高齢者は人口の30%近くに達する一方、介護事業所の約66%が人手不足を感じているとされます。こうした課題を解決するには介護現場のDX化は急務です。業務改善や効率化をさらに進めるアプリを提供し、介護業界を元気にしていきたいですね。
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