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インタビュー
株式会社CodeFox/代表取締役社長
進藤 史裕(しんどう ふみひろ)さん
Web3.0技術生かし、コンテスト型SNSを開発
―御社は次世代インターネット「Web3.0(ウエブ・スリー)」の導入支援を手がけるスタートアップです。まずWeb3.0とはどういったものか教えていただけますか。
 メタバースを「空間の仮想化」と表すなら、Web3.0は「価値の仮想化」を実現する次世代の金融インフラと言えます。一般的に、デジタル上で価値を表現したり、その価値を交換したりするには、金融機関などの管理者がいて実行できますが、Web3.0では管理者や仲介者などを介さず個人同士でやりとりが行える、新しいインターネットの在り方です。ウェブの変遷を見ると、Web1.0がホームページなど一方向のウェブを指し、Web2.0がSNSなど双方向のウェブ、Web3.0はWeb2.0に「保有」という概念が追加されたイメージです。その「保有」や「交換」を可能にしたのが「ブロックチェーン」と言われる技術。ブロックチェーンとは、特定の事業者が取引データを一元的に管理するのではなく、ネットワーク上の複数の参加者が分散して、データを管理する仕組みです。複数人が分散しデータを保持しているためデータ消失の恐れがなく、改ざんも極めて困難です。実際、アートや金融など多岐に渡り活用されており、Web3.0の事業展開や投資などグローバル企業の参入が進んでいます。国としても経済産業省の大臣官房に「Web3.0政策推進室」を設置し、成長戦略として力を注ぎ始めています。
中央集権型システムと分散型システム(ブロックチェーン)のイメージ
―そのWeb3.0技術を活用した次世代プラットフォーム「SPARKN(スパークン)」とは、どんなサービスでしょうか。
 昨今、自治体や企業は多くの課題を抱えています。その課題を組織内だけでなく外部の知見や技術を用いて解決する取り組みが注目されており、オープンイノベーションと呼ばれています。そこで私たちは課題解決手法をより民主化して、誰もがアイデアを提案できるコンテスト型のSNSの仕組みを作りました。それが次世代プラットフォーム「SPARKN」です。
 SPARKNはイノベーター、サポーター、スポンサーの3者で構成されます。イノベーターとは課題を抱えコンテストを開催する企業や人、サポーターとはアイデアを提案したり投票したりする人、スポンサーはイノベーターと協同で出資をする企業や人を指します。コンテストの基本的な流れは、イノベーターが賞金を設定しコンテストを開き、サポーターが期限内にアイデアを提案します。その解決策に対してサポーターたちが投票した上で、最終的にイノベーターが一番良かったアイデアを「WINNER」とし賞金を贈ります。賞金は80%を提案者、20%を投票した人から抽選を行い分配されます。
 SPARKNで扱う賞金はグローバル展開も見据え、世界共通規格のステーブルコインの中から日本円と連動した「JPYC」を採用しています。ステーブルコインとは、ビットコインのように価値が急変動するような仮想通貨と異なり、取引価格が安定することを目的に、米ドルなどの資産と連動するよう設定されたウェブ上のコインです。JPYCの場合、1JPYC=1円の価値で取引されています。同額分をギフト券や電子マネーに変換でき、実際の店舗でも使用が可能です。
SPARKNのホーム画面
https://app.sparkn.io/
―「SPARKN」を開発された背景とその狙いを教えてください。
 当社は地方の活性化を図ろうと2022年8月に創業し、Web3.0導入支援やコンサルティングなど地方発のスタートアップとして活動を始めました。その中で、地方は都市部と比較し、市場での機会のほか必要な支援やリソースが不足していることにより、優れた価値が見過ごされていることに憤りを感じることが多々ありました。そういった課題を解消する一つの手段として、地域通貨や企業が発行するポイントなどを安全に配ることができるプラットフォームが必要だと感じました。「価値の仮想化」を実現した次世代の金融インフラであるWeb3.0技術を生かせば、地方の優れた価値を流通させ最大化できる手段になりえると思い、SPARKNの開発に至りました。賞金分配の機能にWeb3.0技術を用いることで、透明かつ安全な取引が可能になり、賞金を扱うリスクの低減や不正防止、コスト削減を可能にした点が大きな特長の一つです。私たちの手がけたSPARKNは地方の課題を価値に変えるための第一歩。この潜在能力を十分に活用し、オープンイノベーションの促進と地方活性化の実現を目指します。
―広島県で開催されたビジネスイベント「Hi!HIROSHIMA」と連携し、2023年10月のイベント「新風」で、SPARKNをリリースしました。反響はいかがでしたか。
 「新風」は、中国地域ニュービジネス協議会さま(広島市)が主催となり、中国地方のチャレンジ精神あふれる企業のプレスリリースの機会として開催されたイベントです。その中に当社も参加し、SPARKNの概要紹介やデモンストレーションを行いました。自治体や企業、個人まで多方面からご参加いただき、地域課題への新たなアプローチとしても非常に好評で、問い合わせや今後の使用についての相談などをいただきました。実際に「導入するにはどうしたらいいか」と相談を受け、実現したコンテストもあります。また同日、初回のコンテストとしてJPYCさま(東京都)が「JPYC Payのキャッチコピー」、三原市さまが「移住促進」をテーマにアイデアを募集。「JPYC Payのキャッチコピー」には開始初日に50を超える提案が集まるなど、オープンイノベーションのエネルギーと可能性を実感した一日となりました。
 2023年12月現在、募集が終わったものも含めて賞金総額66万円、18ほどコンテストが集まっています。自治体では三原市さまのほか庄原市観光推進機構さま(庄原市)の「雪山誘客チャレンジ」、安芸高田市さまの「ふるさと納税 体験型返礼品アイデア大募集」などのコンテストも開催されています。企業では広島ホームテレビさま(広島市)から「女子野球の注目度アップ」、野村乳業さま(府中町)から「マイ・フローラの認知度アップ」などをテーマにコンテストが開かれました。
イベント「新風」でSPARKNを紹介する進藤さん
―一般の人がSPARKNのサービスを利用するにはどうしたらいいでしょうか。また県民のメリットはどのような点が挙げられますか。
 SPARKNのプラットフォームにアクセスし、アカウントを作成するだけで誰でも自由に投稿や投票が可能になります。いきなりコンテストを開くのは賞金が必要ですし、ハードルが高いと思いますので、まずはアイデアの提案や、提案に対してのコメント、または「いいね」ボタンのクリックなどで参加いただければと思います。アカウントの登録手順やSPARKNの仕組み、賞金などについて説明したユーザーガイドがサイトに載っていますので、ぜひご参照ください。


 また、県民にとってのメリットは、地域課題に直接関与し、解決策を提案することができる点ではないでしょうか。また、自分の地域の課題に他地域のユーザーも貢献してくれるため、新たな知識や視点が得られ、自分たちの地域に適した最善の解決策を見つける手助けを受けることができます。クローズドのままでは得られなかった、より充実したコミュニティの参加体験と地域の発展に寄与できるのではないかと思っています。
将来的な展望や目標を教えてください。
 SPARKNの汎用性は非常に高く、「スキル保有者の募集」や「キャッチコピー募集」といったコンテスト次第では、人材ビジネス、広告代理店、シェアリングエコノミー(遊休資産の仲介サービス)などのマーケットに取って代わるサービスとなるポテンシャルを持っています。オープンイノベーションとファンマーケティングによる強力なブランディングを強みに、市場の獲得を目指します。
 現在ユーザー登録者数は約600人で、2023年度中には5000人ぐらいまで増やしたいと考えています。ただ、登録者の拡大を急いでいるのではなく、今使っていただいている方にしっかりと満足してもらえるような機能の充実を最優先に、ヒアリングや開発をじっくりと進めている状況です。
 中期的な展望としては、賞金をステーブルコインのJYPCだけに縛らず、例えば自治体の地域通貨や企業ポイントなど、いろいろなコインに対応できるようシステムの改良を考えています。もし「三原コイン」というものがあれば、それを賞金にコンテストが設定できるので、イノベーターはお金をかけずにアイデアが募れます。サポーターには「三原コイン」を手に市を観光してもらえるので、私たちの目指す地域の活性化にもつながると考えています。
そのほかDXの取り組みはありますか。
 自社サービスとしては、NFTで年賀状を配布する「年賀状NFT」や、観光地でNFTの証明書とともに特典が受けられる「観光NFT」などが挙げられます。NFTとはNon-Fungible Token(ノンファンジブル・トークン)の略で、デジタルデータの唯一性を証明する非代替性証票です。NFTはデジタルアートなどに広がりをみせ、ブロックチェーン上に情報を書き込むことで、複製や改ざんをできないようにしています。
 年賀状NFTは2023年の年頭に行った企画で、協賛した企業や人が描いた七つの年賀状から、気に入ったものをNFTの年賀状として受け取れるサービスです。発行数が1000枚を超え、反響の高さを実感しました。観光NFTは、23年6月のひろしまフラワーフェスティバルで「折り鶴NFT」プロジェクトとして展開しました。広島市内の5カ所のポイントでNFTのイラストをダウンロードすると、協賛企業から特典が受けられる企画。NFTが入手できるデジタルスタンプラリーとして約100人に楽しんでいただきました。
年賀状NFTのサイト https://new-year-card.hiroshima-dao.com/
「折り鶴NFT」でダウンロードできたNFT
 現在、観光NFTはSPARKNとの連携を進め、イベントとコンテストを同時開催することで、オフライン・オンラインの双方からコミュニティを盛り上げることが可能になりました。23年12月には、「RIVER みんなの G7ここから! MARKET」のイベントで、広島市と庄原市でNFTのデジタルスタンプラリーを実施しました。期間を合わせて開催している庄原市観光推進機構の「雪山誘客チャレンジ」コンテストも知っていただく機会となり、リアルでの集客にもつながりました。
「RIVER みんなの G7ここから! MARKET」の案内
http://www.hiro-chika.com/?cn=102385
「SPARKN NFT」でダウンロードできたNFT
「Web3.0」の導入支援を手がけるスタートアップとして、県民にメッセージをお願いします。
 地域の発展において、見過ごされている価値を再発見するということは非常に大事な取り組みだと思っています。それを実現するためにWeb3.0は要となる技術で、今後地方をはじめ日本が発展するための重要なキーになります。Web3.0あるいはDXという言葉に難しさを感じて敬遠される方もおられるかもしれませんが、SPARKNはなじみのあるインターフェースや直感的な操作など、なるべく身近に感じていただけるよう工夫したサイトになっています。家族で協力してコンテストのアイデアを出し合って、賞金を稼いでもらっても面白いと思います。そういった一人一人のダイレクトな声が地域社会の発展や企業の課題解決につながっていくものだと信じています。
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