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インタビュー
株式会社水みらい広島/代表取締役社長
坂谷 隆太(さかたに りゅうた)さん
県内9浄水場つなぐ「水道広域運転監視システム」構築へ


―御社はどういった企業共同体になりますか。事業内容を教えてください。
 水みらい広島は、2012年9月に「広島県企業局(現広島県上下水道部)」と水・環境の総合事業会社「水ing(スイング)」(東京)の共同出資・PPP(官民連携)によって創設された官民連携企業です。貴重な水源を持続可能な形で、次世代に引き継いでいくことを使命としています。安全で安心な水道水の供給はもちろんのこと、人材育成や新技術の開発に取り組むなど、水事業のトータルソリューションカンパニーとして、広島県内14市町と県で構成される「広島県水道広域連合企業団」およびその他県内の水道事業体の内、幾つかのエリアの水運用、浄水場の運転・管理等を担っています。広島県には県が保有する浄水場が9カ所ありますが、当社はその中の白ヶ瀬浄水場(広島市佐伯区)、三ツ石浄水場(大竹市)、本郷浄水場(三原市)、本郷埜田浄水場(同市)、宮浦浄水場(同市)、坊士浄水場(尾道市)の指定管理を受けています。
 企業共同体をつくった目的としては、官民のそれぞれの強みを融合させ、施設の管理・運営業務の効率化や施設更新の最適化を図り、水道事業全般に貢献していくことです。公共側の視点としては水道事業に携わる職員が減少傾向にある中、事業基盤の安定化や技術の継承、施設の老朽化対策や緊急時における迅速な対応が可能となるような組織の構築などが狙いで、民間側の視点としては、創意工夫などを生かしたアセットマネジメント(資産運用の代行)能力の向上や長期事業運営のノウハウの習得など、官民一体化による広域管理を見据えたメリットの創出を図る点にあります。
水みらい広島が管理している「坊士浄水場」
―日立製作所と連携し22年6月、広島県内浄水場の「水道広域運転監視システムの構築業務」を県から受注されました。どのような業務になりますか。
 広島県が保有する浄水場9カ所を対象に、一元的に全ての施設の運転状況の監視や操作が可能となる広域監視システムを整備する業務です。期間は22年7月から25年3月までとなります。
 先ほども挙げたように、県内外の上下水道事業は、「インフラ設備が老朽化し、更新費用の増加が見込まれている」、「同事業に関わる職員が減少傾向にある」、「市町の枠を超えた連携や一体的な事業運営を行うための広域化が図れていない」など課題があります。しかも、監視制御システムは浄水場ごとにベンダー(販売業者)独自の仕様となっていて、データの互換性がない状況です。そのため、事業を安定して継続するためには、最新のデジタル技術を活用して効率化・省力化を進める必要がありました。
 これらの課題を解決するために㈱日立製作所さまと連携し、国が策定した水道情報活用システム標準仕様に準拠した「水道標準プラットフォーム」の開発を期間内に手掛けます。万全なセキュリティーを有するクラウド上のプラットフォームで、仕様の異なるシステム間でインターフェースの標準化などを図り、横断的にデータの利活用を可能にします。さらに9カ所の浄水場の監視や制御をコントロールできる「運転監視・制御アプリケーション」をプラットフォーム上に構築します。当社は、浄水場9カ所の運転システムを、本プラットフォームに連接するための役割を担います。
広島県の9カ所の浄水場をつなぐ「水道広域運転監視システム」のイメージ
システム構築の進捗はいかがでしょうか。
 23年11月現在、受注から1年半がたち、納期までは残り1年半になりました。25年4月の稼働に向け、県と調整しながら順調に進めています。24年には2カ所の浄水場で仮稼働させる計画です。システム構築中のため具体的な効果は事業完了後となりますが、県外の事業体や関連企業から、「本システムのような先進的な取り組みはどのようにしたら構築できるのか」、「違うベンダーの浄水場を同じプラットフォームにつなぐにはどうしたらいいか」など、官民連携企業だからこそなし得た当社の取り組みに対して、問い合わせが寄せられています。
本システム稼働後、どのような効果が生まれますか。
 システム運用者としては、浄水場9カ所の管理を一元的に行えるようになるため、業務の効率化や省力化が図れます。全施設で行っている夜間作業を、例えば導入後は2カ所だけにして、その他は遠隔で管理するといったことも可能になり、業務負担の軽減や人員不足の解消にもつながると期待しています。またプラットフォームが共有されることで、施設ごとに異なっていた管理画面も共通化されます。職員が異なる事業所においても、戸惑うことなく画面操作が可能になります。
 設備などの更新では、ベンダー間の価格競争や機能拡充により、投資価格の低減や管理運営の改善に期待できることから、より安全で安心な水道水の供給を実施することや、供給単価の抑制にも寄与できるものと考えています。
現在構築中の本システム以外に、何かDX技術を活用した取り組みを行っていますか。
 江田島市の配水池15カ所に「水道スマートメーター」の実証実験を行いました。水道スマートメーターとは指針値を現地に見に行かなくても、自動通信により流量データが取得(自動検針)できる水道メーターのことです。今後は、島内全域の配水池に対して水道スマートメーターを実装し、島内全域の配水管のブロック流量監視および夜間最小流量管理を行う予定です。さらに、その過程で得られるデータを利活用することで、配水管からの漏水検知も可能となります。
 貴重な水資源とエネルギー及びコストを掛けて供給する水道水を漏水によって損失することは、島しょ部のみならず全国的に深刻な問題です。これまでに得た知見やノウハウを踏まえつつ、島内全域の配水地の流量をタイムリーに監視し、島しょ部における効率的および効果的な水運用を図っていきます。
 また、広島でのDX事例について国内のみならず、海外展開できるものについては順次取り組みを開始しています。

県民に対して、メッセージをお願いします。
 水道事業において、今後重要な役割を果たすと期待されているのがDXです。今回お話した取り組みは事業のスムーズな運営に寄与すると同時に、施設の適切なメンテナンスで長寿命化が図れるなど、水道事業の健全な運営に貢献します。
DXを活用し業務の効率化を進める現場。女性社員も活躍している
 当社は、水道事業の一翼を担う会社として、水供給のしくみや大切な水資源の保全などに関心や理解を深めていただけるよう、浄水場見学の受け入れや小学校を訪れ出前水道教室などを行っています。浄水場見学は、コロナ禍で中断しておりましたが、現在は一部再開しています。出前水道教室は22年度から始めた活動で、23年度は広島市や尾道市など4校で実施しました。水の大切さや浄水場の仕組みなどを子どもたちに伝えています。また、地域貢献活動として、「水みらいカップ」と称した少年野球大会を実施。7回目となった23年は10チームが参加し、白熱した試合に選手をはじめ保護者も大いに盛り上がりました。さらに、河川クリーンキャンペーンなど地域ボランティアにも積極的に参加し、地域貢献を図るとともに県民の皆さまに水の大切さや水道事業の役割などしっかりと発信していきたいです。

23年8月、尾道市で4年ぶりに開かれた「水道フェスタ」に参加(写真左)。
「水みらいカップ少年野球大会」も好評だ(同右)
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