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インタビュー
株式会社NTTデータ中国/金融・法人事業部 イノベーション推進室 部長
原崎 武司(はらさき たけし)さん
株式会社日本製鋼所/広島製作所 射出電装部 制御技術グループ
花山 和寛(はなやま かずひろ)さん
成形機の遠隔操作システム開発 効率性と生産性向上
NTTデータ中国の原崎武司さん(写真左)と日本製鋼所の花山和寛さん(同右)

―日本製鋼所(JSW)広島製作所は、射出成形機の遠隔操作を可能にするシステム「J-WiSe Remote Connect®(ジェイ-ワイズ・リモート・コネクト) 」を開発し、2021年から提供しています。まず、射出成形機について教えてください。何をする機械ですか。
 花山 射出成形機とは、主にプラスチック素材を熱で溶かし、金型に流し込んで形を整える工作機械で、プラスチック射出成形機とも呼ばれています。素材を溶かす「溶融」、それを金型に流し込む「射出・成形」、冷やし固める「冷却」、取り出すといった工程を1台で処理します。身の回りにある日用品や家電製品、自動車などに使われているプラスチック製品のほとんどは射出成形機で造られています。全長3㍍の小型から全長20㍍の大型までサイズはさまざま。当製作所は射出成形機を世界展開するマザー工場と位置付けられており、中小型機を中心に製造しています。成形するプラスチックの多くはバンパーやエンジンカバー、内装品、電子機器のコネクタなど、自動車の樹脂部品に使われています。自動車部品以外では例えばスマートフォンのケース、プラスチックのコップ、化粧品や整髪料の容器、プラスチックコンテナなど、各種製品の製造に使用されています。
日本製鋼所が手掛ける小型射出成形機
―「J-WiSe Remote Connect」の仕組みや狙いはどのようなものでしょうか。
 花山 インターネットとクラウド技術を活用し、国内外問わず、弊社の射出成形機を遠隔操作することで、問題解決や生産管理の効率化を支援するシステムです。射出成形機は金型の加工精度を高めるために、材料を射出する際の温度や速度など、多様な条件をコントロールする必要があり、操作には専門的な知識や技能が求められます。成形不良などの問題が発生すると、機械の稼働が停止し、生産ラインに悪影響を与える恐れがあります。熟練技術者やメンテナンス部門のスタッフがメールや電話で問い合わせの連絡や説明を受けても、射出成形機の設定値や成形品の形などを正確に把握するのは難しく、場合によっては人員を国内外の現地に派遣し、到着するまで長時間の稼働停止(ダウンタイム)を余儀なくされることもあります。こうした事態を避け、効率的にメンテナンスを行い、お客さまの生産性の維持・向上を図ることを目的に、NTTデータ中国の皆さんとタッグを組んで開発したのがJ-WiSe Remote Connectです。
 製品として販売しているJ-WiSe Remote Connectはお客様内の管理者・熟練者の方と工場の現場作業員の方をつなぐことで射出成形機の活用を支援するオプションサービスです。
 原崎 遠隔操作のためのソフトウエアを射出成形機にインストールし、クラウドサーバーを介して現場の技術者や管理者と日本製鋼所様のメンテナンス担当が射出成形機のコントローラーの画面を共有する仕組みです。メンテナンス担当はパソコンに映し出されたコントローラーの画面を見ながら、遠隔で設定の変更や調整を行うことで迅速に問題解決を図れます。コントロール画面の共有だけでなく、同時にスマートフォンも遠隔操作対象とすることもできるため、カメラ映像による機械や成形品などの現場の確認や音声通話にも対応しており、より正確な情報共有や遠隔操作が可能です。共有したコントロール画面に描画で指示できる機能や、テキストで状況を伝えられるチャット機能も付いています。
遠隔操作システムを導入した射出成形機のコントローラー部分
開発のきっかけは何ですか。実用化に当たって苦労した点やこだわった点も教えてください。
 花山 射出成形機の制御システムづくりを担当する私は毎日、パソコンに向かってソフトウエアの開発に携わっています。完成したソフトが想定通りに作動するかどうかは、試験場に行き、実際に射出成形機に入れて確認する必要があるのですが、試験場とオフィスを行き来して調整するのがおっくうで、「遠隔操作で調整できないか」と考えたのがきっかけです。そこで、元々お付き合いのあった原崎さんに相談し、既存の遠隔操作用ソフトを提案していただいたところ、とても便利でした。そのソフトは当製作所のシステムとの親和性が高かったので、「射出成形機に搭載できれば、付加価値が高まり、お客様にも喜んでもらえるのではないか」と考え、2018年に開発に着手しました。オリジナルの遠隔操作システムを構築することももちろん可能でしたが、専用の環境を一から整えると膨大な費用がかかるため、既存のソフトを改良し、有効活用する方法を選びました。
 原崎 既存のソフトを活用するといっても簡単ではありません。射出成形機は稼働(耐用)年数が非常に長く、機能や性能は長期にわたり一定の状態を保ちます。一方、遠隔操作ソフトは数カ月単位でどんどん進化します。ライフサイクルが全く違う射出成形機と遠隔操作ソフトをいかにして同期させるかが実用化のポイントでした。広島製作所の皆さんや既存ソフトのベンダーと議論を繰り返し、クラウドサーバーで両者を識別し、調整する機能を加えることで解決しました。培った知見を生かし、費用を抑えながら、優れた機能を持つシステムを構築していく。そこに大きなやりがいを感じました。
 花山 最も重視したのは安全性です。遠隔操作する際につい間違えて射出成形機の作動ボタンを押してしまうと、人身事故につながる危険があります。安全性の点から、遠隔操作時は操作できないボタン・機能を設けるなど、誤操作を防ぐ仕組みづくりに注力しました。開発のめどが立ってからは事業化のための計画づくりや社内承認を得るためのプレゼンに向けての準備がけっこう大変でした。
 原崎 当社は規約の整備や製品パンフレットなどの販促ツールの作成にも携わりながら事業化をサポートし、2021年に販売を開始しました。
インターネットで生産現場と事務所をつなぎ、射出成形機の画面を共有。リアルタイムで遠隔操作でき、
調整やメンテナンスが可能
利用状況や効果、反響はいかがですか。
 花山 ご利用のお客様からヒアリングでは成形品に不良が発生した場合は、射出成形機を操作する現場の技術者と事務所にいる管理者・熟練者をつないでコントローラー画面・機械の状況を共有しながら管理者・熟練者が遠隔操作で射出成形機の設定値を変更するなどして調整されているそうです。「設定の調整や操作に困ったらすぐに相談できるので時間のロスが減った」と好評を博しているようです。弊社でも新入社員研修などで同様の方法で利用しています。射出成形機そのものの不調やハード面の調整に関しては、弊社サービス員が基本的に現地に訪問するのですが、サービス員のみで解決が難しい場合、当製作所にいる設計員と遠隔で繋ぎ、問題状況の把握や問題解決に取り組んでいます。そういった場面で役立っています。
 当製作所の射出成形機は米国、欧州、アジアのお客様にも出荷しています。仮に問題が発生し、日本から訪問する場合、本来なら十数時間かけて現地を訪ね、状況確認を行うところですが、J-WiSe Remote Connectはインターネットさえつながっていれば、地球の裏側にある射出成形機の状況を瞬時に把握することができます。実際にコロナ禍の22年、渡航制限がかけられている中、スリランカのお客さまから、「射出成形機にインストールしてあるソフトを新しいものに入れ替えてほしい」との依頼があったので広島から遠隔操作し、タイムリーにご要望にお応えすることができました。

ベテランの技術者からコントローラー画面を見ながらサポートが受けられる
J-WiSe Remote Connectの利便性をさらに高めるためにどんな機能が必要でしょうか。
 花山 現在、J-WiSe Remote Connectを利用する際は机の上にパソコンのディスプレイ内にアプリケーションを2つ起動し、2窓で利用しています。一つは射出成形機の遠隔操作用に、一つはカメラの映像用に使用しています。一つのアプリケーションの画面で遠隔操作と映像共有が可能になれば、もっと便利になると考えています。オンライン会議システム「ズーム」のような機能もあれば、より多くの人数で射出成形機の動作確認を行える上、ミーティングもできるのではないでしょうか。
 原崎 画面分割もミーティングの機能も技術的には十分可能です。そのほかの用途として、遠隔操作を活用すれば、熟練者による若手への操作指導にも使えます。当社では、眼鏡型端末「スマートグラス」を活用し遠隔で現場の作業を支援するシステム「スマートメンテナンス」を扱っており、この機能をJ-WiSe Remote Connectに組み込むことも可能です。作業者が両手を空けた状態で動画を共有できるので、より安全かつ効率的です。また、射出成形機にセンサーを取り付け、振動などの各種のデータを収集し、人工知能(AI)で解析すれば、故障の予知も可能になるはずです。故障によるダウンタイムの削減にも大きく貢献できます。


今後の展望やメッセージをお願いします。
 花山 電気自動車(EV)の普及が加速する中、1回の充電で走行できる距離を伸ばすために部品の軽量化が重要視され、プラスチック製品への需要がますます高まっています。当製作所では国内外に向け射出成形機の出荷を拡大する方針です。メイン機種の全てがJ-WiSe Remote Connectに対応しているので活用の頻度はさらに高まりそうです。今後は、弊社の優れた成形技術を持つ人員が遠隔操作システムを活用し、良品を成形する技能をお客様にアドバイスしたり、操作方法などの相談を受けたりする機会を提供するサービスを行う予定です。より高性能な射出成形機を供給するのはもちろん、遠隔操作などDXを活用して「かゆいところに手が届く」きめ細やかなサービスを提供し、国内外のものづくりを支えていきます。
 原崎 生産現場では多品種少量生産への対応、人手不足の解消、脱炭素への取り組みなど、さまざまな課題が掲げられており、解決を図るにはAIやIoT(モノのインターネット)の技術を駆使し、DXで生産現場の管理を行うスマートファクトリー化が必要とされています。当社はNTTグループの総合力を発揮しながら、最適な情報システムの開発を通じ、一層の自動化や知能化、省力化をバックアップしていきます。製造業はもちろん、あらゆる分野の企業や行政と協働し、産業や経済を活性化させるお手伝いをしていきたいですね。
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