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インタビュー
株式会社中電工業/わくわくドローンプロジェクトリーダー
花田 正樹(はなだ まさき)さん
株式会社中電工業/どきどきはらはらドローンプロジェクトリーダー
星野 将宏(ほしの まさひろ)さん
塗料の運搬時間短縮を可能にする運搬用ドローン
わくわくドローンプロジェクトリーダーの花田正樹さん(写真左)と、どきどきはらはらドローンプロジェクトリーダーの星野将宏さん(同右)
―山あいの鉄塔の塗料の運搬に、2023年度から本格的にドローンを使っています。どういった作業なのか具体的に教えてください。
 花田 当社は、中国電力グループの主要設備の塗装工事に60年以上携わっており、特に送電鉄塔塗装や大型送電鉄塔塗装には多数の実績があります。送電線を支える「鉄塔」は、鋼材に亜鉛メッキがコーティングされており、新設から約20年で再塗装が必要となります。当社が担当させていただく鉄塔のうち、約7割が山間部に、残りの約3割が市街地に位置します。再塗装が決まれば、鉄塔のある場所まで、塗料を運搬しないといけません。足元の悪い山道を、作業員は、約15~20キロもある一斗缶を担いで運びます。ときには一日2往復しないといけないこともあり、無理をして転んで足をけがしたり、年を重ねるにつれ腰を痛めたりする人もいました。「塗装は好きだが、運搬がこたえる」と、若手スタッフがなかなか定着しないという悩みも抱えていました。 
 そこで、23年度から本格的に、塗料の運搬を人力からドローンに切り替えています。ドローンの機種は、運搬用を選定。運搬する塗料が「危険物第4類」に該当するため、塗料を入れてつり下げるオリジナルカーゴバッグは、航空局から飛行許可を取得しています。
 操縦する際は、山の麓(離陸地点)に操縦者と目視などで操作をサポートする補助者を、山の上の鉄塔付近(到着地点)にも操縦者と補助者を配置。麓からドローンを離陸させ、山の上の到着地点で待つ操縦者がドローンを目視できたら、操縦権が到着地点側に移動。そこからは、到着地点側の操縦者が、目的地に荷物(塗料)を降ろすまでを担当します。
ドローン活用前の人力で塗料を運搬している様子
―ドローン活用に至った背景や狙いを教えてください。また、いつごろから構想がありましたか。
 花田 21年に、当社の役員がドローンに関する新聞記事を見て、「山間部の現場へ工事用資機材を運搬するのに、ドローンが活用できるのではないか」と夢を抱いたのが構想のきっかけです。主幹の部長も関心を持ち、私はその記事で紹介されていた企業をすぐに訪問。当時はまだ、物流ドローンを扱う企業が少なく、珍しいものでした。私は現地で実際の飛行デモンストレーションを見て、当社が求める山間部での運搬に適合するかどうかを確認。「やってみよう」ということになりました。
 導入にあたって、まずは危険物に該当する塗料を運搬するという制約に適合するドローンを慎重に選定しました。空撮用ドローンと違い、運搬用ドローンはオペレーションが非常に難しく、法律を理解するなどの新たな学びも必要でした。航空局にドローン走行の申請を出す際にあったほうがよいだろうと、私と星野さんはすぐに「無人航空機操縦士」の資格を取得。現在4人が資格保持者です。
 私たちは、オペレーターの内製化にこだわりました。オペレーター育成については、機体操作、運搬基地の設定、開設、法的な手続きなどのノウハウが必要になります。そこで、21年11月から実証実験を重ね、段階的に難易度をあげていき、ドローン運搬のシステムを構築しました。
中国電力南原研修所での実証実験
 星野 ほぼ同時期に、当社では「わくわく大作戦」と称したプロジェクトが立ち上がったところでした。このプロジェクトは、当社の強みを認識し、外部に発信していくとともに、組織を強固にしていこうというものです。次の時代を見据えた、未来への投資ともいえます。例えば協力会社の社長を武将に見立てて紹介し、WEBサイトを新設してリクルートにつなげたり、現場の職員を紹介する動画を制作したり、社員がモデルの冊子を作ったり。「仕事をもっと楽しくしよう」という働き方改革の一環でもあります。そんな雰囲気の中でしたので、一気にトップギアでドローンの取り組みが加速しました。
「わくわく大作戦」から生まれたオリジナルキャラクター
これらの取り組みにドローンのどのようなDX技術が生かされていますか。また、効果やメリットを教えてください。
 星野 ドローンが持つ自動飛行技術、マニュアル走行技術などは、DX技術の一つです。ドローンによる資機材運搬の事前調査として、運搬経路の確認および荷降ろし地点の状況を確認するときにも、小型の空撮用ドローンを使用しています。
 花田 全7回の実証実験を経て23年5月、岡山県高梁市の送電鉄塔塗装工事現場で、飛行試験を行いました。水平距離にして300メートル、高低差は200メートルほどの現場でした。担いで山頂に行けば、往復で1時間半かかるところ、ドローンで同じ塗料を運搬すると、往復5分で済ませることができました。従来設けていた「運搬の日」がいらなくなり、その時間を違う仕事にあててもらえるのはメリットです。
 私たちがいつも一番気にしているのは、鉄塔の塗装という非常に特殊な作業を行う塗装業者の皆さんのことです。特殊工事なので、「塗装業者ならどこでもいい」という訳にはいきません。職人さんたちの負担になっている運搬がなくなれば、けがも減るでしょうし、山道で使い果たしていた体力を、塗装の仕事でフルに使っていただけます。職場環境の改善は、慢性的な人員不足に悩む業界全体に好影響を及ぼします。実際に、塗装業者の皆さんにドローン活用シーンを見てもらい、喜んでいただけたのは、私どもにとって、とてもうれしいことでした。また、当社にとっても、「仕事にドローンを積極的に取り入れている」という事実は、学生さんに好印象を持ってもらえるメリットもあります。
利用状況を教えてください。またスタッフの反応はいかがでしょうか。
 花田 2023年上半期は、運搬条件の厳しい大型鉄塔(高さ70メートル級)20基に対して工事用資機材10トン超を運搬しました。目に見える効果としては、塗装作業の前日に「塗料を背負って運搬する日」を設けていたのですが導入後は不要になりました。協力会社からは、「ドローンってすごい!」「重い荷物を運ばなくて済むのは楽」「すべての鉄塔で運搬して」と、大変好評をいただいています。
 振り返ると、新しい取り組みに対して社内では最初後ろ向きな意見が多く寄せられたり、運搬量が目標値に届かず「やる意味はあるのか」と厳しいことも言われたりしました。ただ、本格導入後、想像以上の結果が得られたので、「いいね」「よかった」と評価していただいています。
ドローン運搬を本格導入した500kV送電線(岡山県新見市)での作業
今後さらに改良したい点はありますか。
 花田 2023年上半期は20基を単独でドローン運搬しましたが、今後はさらに効率化を重視し、現場を見て「この鉄塔と、近くにあるこの鉄塔を一度にやろう」というふうに上手に拡大していけたらと思っています。また、現在はオペレーターと補助者がペアで操縦を担っていますが、今後はメーカーとのタイアップ次第で自動操縦化の実現を目指し、人員削減につなげたいです。
 ドローンの性能は日々進化し、新しくなっています。常に情報収集をするとともに、積極的に技術を学び、よいものを当社に取り入れていきたいです。


ほかにもDXを活用しているサービスがありますか。
 星野 定款に、ドローンを用いた事業を追加しました。物資輸送はもちろん、今後はドローンによる写真撮影、空中測量、操縦者訓練などを事業展開する予定です。ドローンのことなら中電工業と呼ばれるように精進します。
 社内では、どこでも仕事ができるように、小型PCとWi-Fiルータを全社員に配布しています。全社員がスマートフォンを携帯。PCと連動させているので、空いた時間にメールチェックができるなど効率化を図っています。スマートフォンでアプリを起動することで、従来は帰社してパソコンを立ち上げて制作していた報告書の作成が、現場でもできるようになりました。帰社する手間と時間を、他の業務に使っています。また、遠隔臨場カメラを取り入れることで、リアルタイムで現場の状況を動画配信するシステムが整いました。現場へパトロールする人を向かわせる手間と時間が省けるようになりました。
今後の取り組み予定があれば聞かせてください。
 花田 災害発生時に、ドローンを使った協力ができたらと考えています。県や市などと連携し、まずは自治体の防災訓練などに参加できたらいいなと思っています。物流ドローンはまだまだ一般的ではなく、知らない人もいます。例えば、災害などで電気がストップしたら、タワーマンションの高層階の人に物資を届けられるのはドローンです。災害時には、ぜひお役に立てたらと考えています。県民のみなさまには、当社が運搬にドローンを使っていることを知ってもらい、いざというときには社会貢献できたらと思っています。
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