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インタビュー
株式会社ちゅピCOM/経営企画本部 事業企画部長
藤田 直也(ふじた なおや)さん
ケーブルテレビ活用しオンライン診療
―ケーブルテレビ(CATV)の「ちゅピCOM」は廿日市市と連携し、同市吉和地域でテレビを使ったオンライン診療とオンライン学習を実証実験しました。この事業に関わったきっかけを教えてください。
 人口減少や高齢化などの地域課題をデジタル技術で解決しようと、廿日市市が2022年8月に「吉和地域での暮らしのDX推進実証実験」の公募型プロポーザルを実施しました。提案した7社の中から、当社の案が採択され委託業務を受託しました。吉和全域に当社の光回線網がすでに整備されており、ケーブルテレビの世帯普及率が8割を超えていたことも、追い風になったと思います。
 吉和地域は現在、人口588人(323世帯)で、そのうち65歳以上の住民が51.2%にも上る高齢化地域です。しかも、医療機関は吉和診療所(内科)のみ。たった一人の医師・吉川仁さんはこまやかな診療で地域住民から絶大な信頼を得ており、以前から電話での診療にも応じていました。診療の利便性向上の必要性を感じていた吉川先生も、積極的に協力してくださることになりました。
 スマートフォンやタブレットは不慣れなお年寄りが多い中で、ケーブルテレビ事業者が強みを発揮できるとしたら、家に必ずあって、誰でも操作できるテレビを使うことでしょう。また、もう一つの強みは、業界内の横連携がしっかりしていること。ケーブルテレビ最大手のJ:COMさま(東京)が「ケーブル・オンライン診療」の有料サービスを展開しており、そのシステムを活用させてもらうことにしました。また、オンライン学習についても、吉和地域に学習塾などの民間教育サービスがないため、需要があるのではないかと考え、同じ中国新聞グループの中国新聞文化センター(広島市中区)に協力を求めて実施することにしました。
J:COMのシステムとテレビ電話を活用したオンライン診療
どういった仕組みで、サービスを提供したのですか。
 まずは、実証実験に協力していただく方を募り、47世帯2団体が応募してくれました。その世帯を回って、テレビに接続して動画などのコンテンツを表示させるための機器で、オンライン診療やテレビ電話ができる機能も備えたセットトップボックス(STB)を設置して環境を整えました。吉川先生には、オンライン診療のアプリをインストールしたパソコンやタブレットで対応してもらうことにしました。
 オンライン診療の場合は、診療費や薬代を支払うためのクレジットカードが必要です。当社の社員が利用者のお宅に訪問してカード情報などを登録し、テレビのリモコンを使った操作の方法を伝えました。リモコンの矢印と決定ボタンを押すだけで予約などができます。診療時間の5分前に入室して待機していると吉川先生も接続し、お互いの姿を見ながらの診察がスタートします。クレジットカードを持っていない高齢者には、診療所に連絡して吉川先生の都合を伺った後に、テレビ電話の機能を利用して診察を受けてもらうことにしました。
 一方、オンライン学習はテレビ電話の機能を利用しました。幅広い年齢層の人たちに参加してもらおうと、中国新聞文化センターの講師による英語講座と脳トレ体操、イラスト教室の計6講座を準備。どの講座も月1回のペースで開催し、数人ずつ参加者がありました。
吉和地域での実証実験に取り組んだ藤田さん㊧と経営企画本部の荒木麻美さん㊨
実際にやってみていかがでしたか。
 10世帯が登録したオンライン診療の利用者からは、「祖母を月に1度、診療所まで車で送っているので、助かります」「非常に難しいイメージを持っていたが、やってみるととても簡単だった。時間も効率的に使えて自宅で完結できてよかった」「先生とのコミュニケーションも問題なかった。大変満足した。次回も使用してみたいし、他の人にも勧めたいと思う」「両親が高齢なので、実証実験の後にいくらで使えるのか教えてほしい」「冬など診療所に連れて行くのが難しい時に使いたい」などの声が上がりました。吉川先生にも好評でした。会合などで吉和の外に出かける時に、タブレットで診療や相談に対応できてとても助かったそうです。
吉和診療所での操作説明
 一方で、課題も多く浮かび上がりました。J:COMさまのシステムを使ったオンライン診療もテレビ電話での診療も、薬の配達を吉川先生がせざるを得なかったことです。クレジットカードを持っていない患者さんが利用したテレビ電話については、薬だけでなく診療費も吉川先生が患者さんの自宅を訪問して受け取りました。地域内に薬局と連携した配送網の必要性を感じました。
 また、吉川先生は面倒見が良くて人気があるだけに、「先生とリアルに対面で診察してもらいたい」という患者さんが多く、診療所は知人と会って語り合う地域の社交場にもなっているので、オンライン診療への理解が深まりにくい実情も感じました。リモコンも年齢によっては一人での操作が難しい人もいて、家族のサポートが必要だなと思いました。
 オンライン学習では小学4~6年生クラスの英語講座が一番人気があり、最大7人が受講してくれました。「スマートフォンやタブレットとは違って、リビングにあるテレビでの受講なら親子で楽しめるから」という理由で参加してくださった家庭では、意欲的に受講してくれました。イラスト講座では「最後に先生が似顔絵を描いてくれて、うれしかった」などのほほ笑ましい感想が寄せられました。一方で、双方向でのメリットが生かしきれなかったと残念に感じたこともあります。脳トレ体操の講座では、講師とカメラの位置が離れていて、講師が受講者に呼びかけることが難しいといった細かい反省点も出てきました。
脳トレ体操を受講する吉和地域の住民
実証実験では、他にも多彩な試みをしたそうですね。
 吉和では他にも、生産者の高齢化や減少に直面している農業の課題解決の力になりたいと、稲作の田んぼにスマートフォンで遠隔操作できる給水・止水ゲートを設置し、センサーと連動させて一定の水位を保つようにして労力の負担軽減などに取り組みました。また、稲を植えた後の水田に自動抑草ロボットの「アイガモロボット」を浮かべ、雑草を生えにくくする取り組みを試してみました。アイガモロボットは、スクリューの水流で土を巻き上げて田んぼ全体をにごらせ、太陽光を遮ることで雑草が光合成をしにくい水田環境を作ります。自動化されている上に除草薬を使用しなくても済むので、安心安全な稲作の環境を実現できます。
 さらに、気象センサーと定点カメラを組み合わせた実証実験もしました。気温や湿度などの気象データをクラウドに上げて、定点カメラの映像とデータをスマートフォンだけでなくテレビでも見られるようにしました。通常は道路の混雑ぶりや降雪の状況などの確認に役立てますが、今回はひまわり畑の近くにカメラを設置して生育状況を見られるようにしました。また、災害防止のために吉和にある太田川の源流に冠水センサーを設置して、豪雨の際などの水の増減を把握できるようにしました。
 1人暮らしをしている高齢者の見守りにも役立つことはできないかと、吉和に住むお年寄り4世帯の住まいに赤外線センサーを設置し、室内の温度や湿度が異常に高いと吉和社会福祉協議会のパソコンにお知らせが入って連絡してもらう取り組みも試みました。これらの事業を9月中に終え、結果を11月に成果発表会にて発表する予定です。
水田に設置した給水・止水ゲート
人口減少や高齢化が進む地域でのDXに取り組んでみた感想をお願いします。
 企業内で取り組むDXと違って地域には幅広い課題があり、コストが非常にかかるため、自治体の費用面の支援が必要だと実感しています。地域密着を掲げている当社は、ケーブルテレビの多彩な事業の中にDXを組み込み、自治体と連携しながら実施していきたいと考えています。
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