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インタビュー
株式会社シャレム/代表取締役 広島ロボケアセンター センター長
荒木 晶子(あらき あきこ)さん
装着型サイボーグで身体機能を改善
―シャレム(広島市西区)が開設した「広島ロボケアセンター」(同区)では、装着型サイボーグ「Hybrid Assistive Limb®︎ (HAL)」を使用した脳神経・筋系の機能改善を促すプログラム「Neuro HALFIT®」を行っています。まずは「HAL®︎」について教えてください。
 「HAL®︎」は、人の脳神経と筋系を繋ぐことで、装着者の意思に従った動きを実現し、着るだけで人をサイボーグ化する世界初の技術で、茨城県つくば市にあるCYBERDYNE社が開発しました。人が身体を動かそうとすると、指令信号が脳から神経を通じて筋肉へ送られ、その動作を実現するように筋肉が動きます。その際、微弱な「電気的な信号」が皮膚表面から漏れ出てきます。 これをHAL®が皮膚に貼ったセンサーで読み取り、「装着者の意思」に従い動きを実現します。
脳が「電気的な信号」を筋肉へ伝え、HAL®︎が動くイメージ(提供CYBERDYNE)
 当施設ではHAL®︎を使い、脳卒中や脊髄損傷など病気や事故の後遺症などで身体が思い通りに動かせない方に向けたプログラムを提供しています。HAL®︎は足に装着する「下肢タイプ」、肘・膝・足関節に装着する「単関節タイプ」、腰に装着する「腰タイプ」の3種類があり、身体の状態に応じて使い分けています。

HAL®︎「下肢タイプ」(写真左)、「単関節タイプ」(同中)、「腰タイプ」(同右)(提供CYBERDYNE)
「Neuro HALFIT®︎」について教えてください。
 HAL®を装着し自分の運動意思と同期した随意運動を無理なく繰り返すことで、ご利用者様の生活動作の自立をサポートします。また、専用のモニターに装着者の身体の様々な情報を表示させ、視覚的なフィードバックを行うことができます。
 1回のプログラムは90分。医療機関でのリハビリテーションの経験を持つ理学療法士や作業療法士などの有資格者が、医学的な知識や経験、評価に基づき、身体の状態に合わせて個別にメニューを組みます。
 メニューの一例としては、プログラム前後の効果を確認するために歩行速度を測った後、ストレッチや筋トレなど軽い運動をしてからHAL®︎を使うというイメージです。効果が出やすい方は、90分のプログラムを繰り返すことで10㍍歩くタイムが10秒近くも縮んだ方もいらっしゃいます。
センサーで読み取った「電気的な信号」がモニターに映る
HAL®︎の「下肢タイプ」(写真左)と「単関節タイプ」(同右)を使ったプログラムの様子
どのような経緯で「広島ロボケアセンター」を設立されましたか。
 「広島ロボケアセンター」は医療法人光臨会荒木脳神経外科病院の関連会社シャレムが2019年7月に開設しました。病院の医療保険や介護保険の制度ではカバーできないリハビリのニーズに対応したいという目的がありました。地域の公的医療・介護保険サービスでは、対応が難しいニーズをお持ちの方々のご要望にお応えする場を創出し、公的保険対象外の新たな選択肢を提供しています。広島ロボケアセンターは荒木脳神経外科の関連施設ですので、十分な臨床経験を持つ理学療法士や作業療法士といった有資格者がプログラムを行うところが最大の特徴です。
 当施設はCYBERDYNE社の子会社である大分ロボケアセンター(大分県別府市)とフランチャイズ契約を結んでおり、その知識や技術を継承しています。


利用者の方は、どのくらいの頻度で通われていますか。また、改善した例があれば教えてください。
 週1回利用していただいている方が多いです。ニーズや状況によって2週に1回や1カ月に1回など、さまざまな頻度でご利用いただいています。月に1回の方は、HAL®︎で自分の歩き方をつかんで日常のリハビリにつなげていただいています。
 ご利用者様からは「脚が軽くなった」「姿勢が良くなった」「プログラムの後は動きが良いとみんなが褒めてくれる」などの声をいただいています。
 寝たきりだった方が週1回、1年のリハビリを経て首が安定し、HAL®︎を装着して十数年ぶりに歩けるようになったり、歩行器に寄りかかりながら歩いていた方が半年で4点杖を使って歩けるようになったりするなど、実際に効果を感じていただいています。
 通所でのプログラムの他にもHAL®︎の「単関節タイプ」・「腰タイプ」は個人の方向けのレンタルプランがあるため、ご自宅でトレーニングをする方もおられ、HAL®︎の取り扱い方法の指導やご自宅でのプログラムメニューの立案等のサポートも行っております。
今後さらに改良したい点はありますか。
 現在の利用者層の9割以上が成人です。小児の利用者に対応できる機器が不十分であるため、受け入れられる環境を整備していきたいと考えています。
 また、国内の利用者だけでなく、海外からの利用者の受け入れを促進するため、広島ロボケアセンターでの「Neuro HALFIT®」と広島県の観光を組み合わせたツーリズムが実現できないかと考えています。例えば1カ月の滞在中、数日連続でプログラムを受けていただき、それ以外の日は観光を楽しんでいただく、というプランです。他の地域のロボケアセンターと協力して、今週は広島で「Neuro HALFIT®」と観光、来週は大分で「Neuro HALFIT®」と温泉、再来週は岡山で…、といった具合にプランを組むのも良さそうです。
今後の展望や、広島ロボケアセンターへの思いをお聞かせください。
 現在、全国のロボケアセンターや医療機関などのHAL®︎運用データはすべてCYBERDYNE社のクラウドに蓄積されています。現在HAL®︎は装着者の身体状況に応じた設定を理学療法士や作業療法士などが装着者の身体状況を評価する能力や知識、経験を基に入力して使用しています。
 今後、このような評価データの蓄積が進めば、その方にとってより最適なプログラムの提供が誰でも可能となる時代が来ると思います。そうなれば、特別な経験や知識がなくても今まで以上に最適なプログラムの実施が可能となり、自宅でのHAL®︎プログラムと理学療法士や作業療法士が行うプログラムとの住み分けができるようになると思います。
 ご利用者様、あるいは患者様にとって、より良い環境が創り出されていくのではないかと考えています。
 会社の名前は、宵の明星を表す「シャレム」という言葉から付けました。昼間は太陽がまぶしく照り、太陽が沈んで夜になるまでの間に宵の明星が明るく光ります。人生で活躍された方が最後に夜を迎える前にもう1度輝いてほしいという願いを込めています。ご利用者様の回復をサポートし、今後も寄り添っていきたいと思います。
代表取締役の荒木さん㊨と理学療法士の瀧慎伍さん㊧
広島ロボケアセンター ホームページ
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