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インタビュー
広島市立大学/情報科学研究科 知能工学専攻 准教授
毛利 考佑さん(もうり こうすけ)さん
「ラーニングアナリティクス」で学修状況を分析し活用
大学内で展開されている「ラーニングアナリティクス(LA)」はどういったものなのか教えてください。
 ラーニングアナリティクスは、簡単に言えば「学修状況の分析」です。学生の出欠や成績、学修計画などの教育データを管理するラーニングマネジメントシステム(LMS)と学修状況データが取れるデジタル教材システムを使い、学生一人一人の学修の状況をデータ化・分析し、最適な学修方法を提案していく取り組みです。これまで学生の学修状況については、テストや講義に対するアンケートでしか分かりませんでしたが、LAにより学生がいつどこで、どんな方法で学んでいるのかなどの状況をデータで把握できるようになりました。これらのデータを分析し、可視化することによって教員は教育方法を、学生は学修方法を効率的にブラッシュアップできます。
デジタル教材の画面
 LAの仕組みは、まず各教員がデジタル教材システムで講義用の教材を作成します。教員それぞれが資料を集め、独自の教材をシステム上に作っていきます。事前に学生が効率良く学べるよう、教材のトップページに、人工知能(AI)がデジタル教材の内容を自動分析し、重要なキーワードとページを割り出した表が生成されます。学生は教材にインターネットを通じてアクセスし、AIの表を活用しながら効率的に学んでいきます。
 講義はデジタル教材をベースに進めます。講義中だけでなく、予習や復習などで教材を使った履歴データは保存され、蓄積されます。教員は一定期間ごとに分析し、「学修状況シート」を学生にフィードバックします。これにより学生は内省し、自己に適した学修方法を確立させていきます。
 また、教育方法の改革として取り入れたのは「リアルタイム学修分析」です。講義中に学生がどのページを閲覧しているかを教員のパソコンにリアルタイムで通知されるほか、ページごとのパーセンテージも見られます。例えば、教員が説明しているページよりも前のページを閲覧している学生が多い場合は講義のペースを落とすなど調節も可能。学生の理解度にどんな影響や効果があるか、データを蓄積中です。

AIが自動分析した重要項目の表
学修状況シートの一部
LAを導入した狙いを教えてください。広島市立大学、九州大学、NTT西日本の3社共同の取り組みということですが、それぞれの関わりについて教えてください。
 本学は、大学全体のデジタル化を推進するため、2020年12月に基本方針を策定しました。教育の充実や業務のさらなる効率化を進めるためです。開学30周年にあたる24年をめどに、教育のDX化を図っています。
 目標は従来のアナログ情報を基盤とする教育を、デジタル情報を活用する教育へと変革することと、学生本位の学修スタイルを確立させることです。私は21年4月から本学で研究を始め、22年4月から23年3月にかけて九州大学さま、NTT西日本さまと共同でトライアルを実施し、4月以降に本学で本格稼働させました。LMSと教材システムの導入と維持、管理をNTT西日本さまが行い、データを本学で蓄積。九州大学さまからはこれまでの研究成果やノウハウの提供を受け、教育、情報科学、芸術の3学部20講義でLAを実施しています。

LA導入の講義
学生や教員、教務スタッフにとってどのようなメリットがありますか。
 学生は出欠や成績、学修計画などの教育データを管理するLMSと教材を統合したLAシステムによって、これまでは特に明確になっていなかった、自身の学修スタイルやプロセスを把握できます。自分に最適な学び方を見つけることで、効率化につながります。またLAの統合的な分析は、進路決定の判断にも役立つでしょう。
 教員は学生の予習や復習など、学修状況が把握できるので講義を効率良く進めることができます。また講義中の教材の閲覧状況が、これまでのような教員の目視ではなく、データでリアルタイムに分かるので、ペース配分をしながら全体の理解度を高めていくことができます。これらの蓄積された大量のデータを解析することで、効果的な教育方法を見つけられます。また、これにより教員ごとの教育方法のばらつきがなくなって標準化し、教員同士で情報共有できるようになり、相対的なスキル向上が期待できます。これが教育全体の効率化と質の向上につながっていくと考えています。
 教務スタッフはこれまで、テストや進路指導の際、膨大な量の入力作業が発生していましたが、LA導入によって学生のデータがTOEIC成績など一部を除いて連動したため、作業が大幅に削減されたことが大きなメリットです。

稼働状況や教員の反応はいかがでしょう。また、導入や運用にあたり、苦労した点はありますか。
 共同トライアルのテスト期間だった21年度後期にLAに関わった教員は29人で授業数は26。 22年度前期は教員数45人で授業数38、22年度後期は教員数41人で授業数41と拡大しています。
 教員からの評価は「授業の見直しやDXの取り組みに対して意識が上がったことが、個人的には参加した意義があったと感じている」「教育のデジタル化への意識が高まり参加してよかった」など、LAシステムで収集できる多様なデータや分析、可視化などの機能に驚き、意識が高まったようです。
 導入後の課題としては「EDX UniText(電子教科書・教材配信システム)のユーザービリティーについて改善の余地がある」「教員にフィードバックシートを分析する能力、時間が厳しい」などが挙がりました。導入直後だったので、慣れるまでの苦労が大きな要因であると考えられます。また説明書も充実していなかったことも要因です。現在は教員もシステム操作に慣れ、説明書も整っています。学生からの評価については23年度中にまとめる予定で、今後の取り組みにしっかり反映させていきます。

県民に対して、PRなどメッセージをお願いします。
 これまでの教育は、現場の教員の経験や学生のアンケートを主体に教育・学修改善が行われてきました。現在、教育・学修のデジタル化が推進され、学修者がいつどこでどんな指導を受けて何を学んだのか、その結果どのような効果が得られたのかなどの、きめ細かいデータを収集して研究しています。データを分解し、行列などの数式処理をしていくと一定の条件下で類似した結果をもたらすパターンが現れ、そのエビデンス(根拠)が見えてきます。これらをいかに見つけて蓄積し、教育にどう活用していくかが今後、教育DXを進めていく上での重要課題だと考えています。
 県民の皆さんにLAを理解してもらうことは、私たちはもちろん、導入を考える教育機関にとって大きな力になります。多くの教育機関がLAに取り組むことでエビデンスとなるビッグデータはさらに成長していきます。そのビッグデータを社会全体で共有すれば、日本はもちろん世界の教育の発展へとつながっていくでしょう。

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