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インタビュー
東広島市/総務部総務課 危機管理課 課長
上田 崇 (うえだ たかしさん
東広島市/総務部 DX推進監
橋本 光太郎 (はしもと こうたろうさん
災害情報を一元管理 地域単位で発信
総務部総務課危機管理課課長の上田さん(写真左)と総務部DX推進監の橋本さん(同右)
2023年4月、東広島市が導入した新しい庁内防災情報システムとはどのようなものですか。
 上田 災害発生時に、さまざまな官民機関が発信する気象や被災の情報を一元化し、災害対策本部の職員がリアルタイムで共有できるシステムです。混乱しがちな災害対応時に、より正確に状況を判断し、住民への迅速で適切な情報発信につなげるのが狙いです。
 開発のきっかけは、2018年の西日本豪雨です。当時、消防局や県警などの関係機関や市民から約8千件の被害情報が入ってきましたが、デジタルで集約し、管理するシステムがありませんでした。連絡を受けた職員が聞き取り調査を行い、被害場所を示す地図情報を加えた書類を危機管理課に提出。書類は案件ごとに、対応する班に振り分けられます。その際に複写する手間がかかったり、書類が重複したりするなど、作業が煩雑になっていました。そこで翌19年、本市で独自に災害情報を共有するためのシステムを開発しました。しかし、その後、災害が激甚化・頻発化する中で情報収集機能を強化する必要が生じたため、22年から約1年間かけてシステムを一新しました。

官民機関の情報を一元化し、災害対策本部の職員がリアルタイムで共有できる東広島市の新防災情報システムの画面
―新防災情報システムの特長を教えてください。どんな点が改善されましたか。
 上田 特長の一つは、情報集約の自動化です。新システムは気象庁や県、企業などが提供する雨量、河川水位、土砂災害、道路規制など約20種類の情報をパソコン上で一覧表示できます。出先機関や市民から多様なルートで届く被害状況や対応状況も時系列で表示。地図情報もひも付けされるため、「どこでどんな被害があったか」を全職員が把握できます。こうしたさまざまな情報を集約した上で、「避難指示」「高齢者等避難」などの避難情報をどのタイミングで出すかを災害対策本部が判断し、市民に発信します。
 旧システムは、職員が各機関のホームページを一つ一つ閲覧して情報を手入力したり、本庁や出先機関、消防に届いた被災情報を後から整理し直したりしていました。短時間に更新される情報を集めるには、複数の職員がパソコンの前に張り付く必要があり、情報の見落としや重複など、ヒューマンエラーのリスクも課題でした。新システムの導入で、職員数が限られる中で、よりスムーズかつ精度の高い情報の収集と発信が図れるようになりました。
 もう一つの特長は、本市の防災メールをはじめ、コミュニティFM放送の電波を利用して避難指示などを行う「緊急告知ラジオ」、報道機関向けのLアラート(災害情報共有システム)、SNSなど、さまざまなメディアへ一括して災害情報を発信できることです。市民ポータルサイトとも連携しており、登録した市民一人一人に、きめ細やかな災害情報を届けられるメリットがあります。

―市民ポータルサイトとはどのようなものですか。また、新しい庁内防災情報システムとどう連携しているのですか。
 橋本 市民ポータルサイトは、インターネットで市民と市役所や学校をつなぐ情報サービスです。2021年4月にスタートしました。防災情報や市や小中学校からのお知らせなどのサービスがあり、無料通信アプリLINE(ライン)とメールでさまざまな情報を提供しています。ウェブサイトだけだと、能動的にアクセスするきっかけがないと情報を入手できません。しかし市民ポータルサイトなら、一度登録すれば、メッセージがスマートフォンなどの端末にプッシュ通知されるため、必要な情報をタイムリーに得られます。庁内の新しい防災情報システムとも連動しており、住民が希望した地域の大字単位の情報だけを届けたり、災害の危険区域に住む方にはメッセージの内容を強めたりできるのが大きな特長です。例えば「西条栄町」などの大字を登録しておけば、災害時はその大字に関係する浸水や土砂崩れなどの情報だけが届きます。大字は三つまで登録可能で、土砂、洪水、津波、高潮時の浸水想定区域のいずれかに該当する場合が対象です。避難指示が出た際、同じ大字内でも、区域外の方には「危険を感じた場合は避難してください」と伝える一方、区域内の方には「今すぐ避難してください」と呼び掛けるなど、危険度に応じてメッセージの内容も変えています。また、配信の言語は日本語のほか、「やさしいにほんご」「英語」「中国語」「ポルトガル語」「ベトナム語」の中から選ぶことができます。
市民ポータルサイトのホームページ:https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/soshiki/somu/5_1/8/index.html

市民ポータルサイトのスマートフォン版トップ画面(写真左)と防災情報の通知設定画面(同右)
―利用効果や反応、成果などを教えてください。
 橋本 東広島市内でも安芸津地区は大雨なのに、豊栄地区は晴れているなど、近年の災害は局地的に発生することが多く、全市的に災害情報を出すと「また送られて来たか」と思われ、他の情報の中に埋没しがちです。しかし、市民ポータルサイトにより、地域を限定して災害情報を発信することで、通知を「自分事」として受け止めてもらい、避難の準備を行うなど行動変容につながる効果が期待できます。毎年登録者数は増え続けており、現在は約3万3000人に達しています。大字単位で三つまで登録できる点も好評で、自宅に加え、離れて暮らす親の住まいや会社のある地域を登録する利用者も少なくありません。
 上田 新防災情報システムの導入により、災害発生時の被害情報などが漏れなく整理され、精度の高い情報の共有と発信が可能になりました。現在は、実際に活用しながら、運用方法の詳細確立に努めていますが、業務や作業が効率化される分、対策の立案などに集中して取り組めつつあります。加えて、重要だと判断した災害情報については職員同士が直接電話で確認し合うなど、職員自らの危機意識や士気が高まった点も大きな効果だと思います。

―新防災情報システムや市民ポータルサイトの今後の展望やメッセージをお願いします。
 上田 新防災情報システムについては、大雨や台風による災害だけでなく、地震対策にも活用する方法も検討しています。南海トラフ地震などの発生後、多様な人的・物的支援を受ける際の情報収集や発信に新システムは有効と考えています。地震被害は広域に及ぶことが予想されるので、県や国との情報連携もスムーズに取れるよう、機能を強化したいと考えています。
 橋本 LINEやメールによる災害情報の通知だけでは、「自分の住む地域が今、どのくらい危険な状態に置かれているのか」をイメージしにくいものです。災害情報の通知に、避難所の情報や避難経路を表示したり、高速道路が寸断された場合に代替ルートをハザードマップと重ね合わせて表示したりするといった機能なども加えれば、有効性がさらに増すと考えています。
 上田 市民がホームページへアクセスし、最新の災害情報や被災情報を得られるようにするなど、新防災情報システムの活用範囲を広げるのも今後の目標です。市民と地域、行政が一体になって「自助・共助・公助」の取組を高められるような情報環境づくりを進めます。
 橋本 本市ではさらに、行政の支援策や相談窓口の案内など事業活動に役立つ法人向けのポータルサイト「サポートビラ」を3月に新設し、現在約800社が登録しており、企業との接点を広げています。市民ポータルサイトも、防災や子育て向けサービスをさらに充実させていきたいですね。

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