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インタビュー
株式会社北川鉄工所/執行役員 DX戦略本部 本部長
谷 誠(たに まこと)さん
DX戦略本部 DX推進室 室長
谷本 守男(たにもと もりお)さん
設計の3D化推進 ものづくりを高度化
DX戦略本部長の谷さん(写真右)と同本部DX推進室長の谷本さん(同左)
DXにどのように取り組んでいますか。
  府中市に本社を置く当社は、旋盤の主軸に装着して工作物を固定する工具(チャック)やロボットハンドなどの工作機器、タワークレーンや自走式立体駐車場などの産業機械、自動車や農業機械に使う部品などの金属素形材の3事業を軸に、多彩な製品の開発製造に携わっています。地方を拠点としながら、グローバルに事業を展開する上でDXは不可欠との考えから、創立80周年にあたる2021年以降、IT関連の投資に一層力を入れてきました。
 谷本 DXを生かし、事業の持続的発展につなげようと、21年に情報関連のセクションを再編強化し、DX戦略本部を開設しました。23人のメンバーの半数がシステムエンジニア(SE)で、独自のシステムを内製できる点が強みです。開設前後からITベンダーの協力を得ながら、「3次元(3D)モデル」を軸とした、ものづくりプロセスの改革を進めてきました。

3Dモデルとはどのようなもので、どう活用していますか。
 谷 3Dモデルとは、3Dによるコンピューター支援設計(CAD)で設計したデータを指します。コンピューターで製図する従来の設計図面(2Dデータ)は線で描かれた情報に過ぎず、製造や組み立てなどの後工程を担当する技術者は設計図面から完成した状態を想像しながら、製造用の図面を新たに作成したり、プログラミングしたりするため、見間違えや入力ミスが起こりがちでした。一方、3DCADで作ったデータは360度、どの方向からも確認でき、完成イメージを正確につかめる上、後工程でもデータを活用して処理できるので、業務の無駄を省き、人為的なミスも防げます。
 谷本 当社では1999年に3DCADを導入しましたが、機能がまだ十分でなく、業務での活用は一部にとどまっていました。しかしここ数年、3DCADの技術進化が目覚ましく、2020年に社を挙げて設計の3D化に着手しました。コンピューター上で設計した3Dモデルを製造や組み立て、検査、販売まで、製品のライフサイクル全般にわたって共有することで、ものづくりのスピードアップや高度化を目指しました。



福山市民病院の北駐車場の3Dモデルと立面図
―3Dモデルを全工程で共有することで、どんな効果が得られますか。
 谷 3Dモデルには、形状情報だけでなく、材料、加工、コストなど、さまざまな情報を専用のソフトを使ってひもづけできます。例えばクレーンの3Dモデルには、クレーンを構成する部品一つ一つの材質や数量、単価といった製品情報はもちろん、「どの工程で、何の設備や工具を使い、どのように造るか」といった工程情報も付加することができます。さらに、デジタル空間では3Dモデルを使って製造や組み立て手順の検討、力をかけた時のたわみ具合や強度、動作確認などのシミュレーションもできます。そのため、部門間の情報共有や連携がスムーズに進み、前工程の完了を待たず、並行して後工程の業務を進めたり、製造段階の情報や知見を設計にフィードバックして、量産しやすい構造を意識した設計に改良したりすることが可能になりました。その結果、全ての工程での業務が大幅に効率化され、リードタイムが短縮されるとともに、製品の品質もアップしました。多品種少量生産にもよりスピーディーに対応できるようになるなど、競争力の源泉となっています。
鉄塔クレーンの動きを示す3D画像
3Dモデルを核に開発設計から製造、組み立て、試作、プレゼン、販売まで製品のライフサイクル全般を管理。ものづくりのプロセスを大幅に効率化
 谷本 工作機器事業の製造現場では、設計図面を基に適切な設備を選び、工具指示用の図面や加工指示用のプログラムを作成します。2D図面に基づくプログラミングではベテランが入力しても約32時間かかっていた作業が、3Dモデルを使えば、約4時間で完了するようになりました。
―改革を進める上で苦労した点はありますか。
 谷 1918年の創業以来、100年以上続く図面文化を脱却するには、社員一人一人の中に、変革への意識や機運を醸成していく必要がありました。現場の技術者たちの声をよく聞き、これまで培ってきたものづくりへの思いやこだわりを大切にしながら、3Dモデルの重要性や意義を説き、互いの立場からシステムの在るべき姿を協議しました。
 谷本 ITベンダーと連携し、3事業の技術者約300人に導入教育や関連ソフトの操作を学ぶ講習会を定期的に開き、必要なスキルの習得をサポートしました。3Dモデルによる改革を実践できる人材の育成と並行しながら、3Dモデルデータを各工程で連携、共有できる仕組みを整備し、製造や営業の分野で3Dモデルによる業務改革を進めています。

―3Dモデルによる業務改革の事例を紹介してください。
 谷 立体駐車場事業では、3Dモデルで建築設計などを行うBIM(Building Information Modeling)の導入を開始しました。現在、建設中の福山市民病院北立体駐車場(福山市)では、画面上に5層6段型の立体駐車場の3Dモデルを作成。材料や部材の仕様、構造、仕上げなどの情報を組み込み、設計から施工までの各工程を一つの3Dモデルで進めています。お客さまからプランの変更があっても、3Dモデルのデザインに変更を加えるだけで、全てのデータが連動し、設計図面をはじめ、パース(立体イメージ図)、面積表などが自動修正できるため、ご要望に迅速に応えることができました。また、お客さまの目の前で3Dモデルを動かしながら、各階のレイアウトや車室、車路、通路の状況を、運転者と歩行者の目線で確認していただけた点も好評でした。
 谷本 直感的に仕様や構造を把握でき、お客さまと認識を合わせやすくなるのも3Dモデルのメリットです。例えば、送電鉄塔を組み立てる時に使用する鉄塔クレーンの開発に当たっては、鉄塔を吊り上げ、組み立てる時の動きや手順を3Dモデルで表示。安全かつスピーディーに組み立てる方法をお客さまと共に検討する際に役立ちました。

3Dモデルを使って設計した福山北立体駐車場
―3Dモデルを使ったものづくりの今後の課題はありますか。
 谷 デジタル空間で設計を行い、製造、加工、試験をシミュレーションできる環境をより充実させ、各工程を並行して進める「業務のコンカレント化」により、ものづくりのさらなる効率化を目指します。画像や文章を自動作成する生成人工知能(AI)を駆使した設計の自動化も課題の一つです。設計目標や機能、空間条件、材料、製造方法、コストの制約など、一定の情報を専用のソフトウエアに入力することで、最適な設計を自動的に生成する「ジェネレーティブデザイン」にも取り組む方針です。特注製品の設計では、特に自動化を進めやすいと考えています。当社の製品は一つの基本形が完成すれば、形の改良やオプション機能を加えるなどして、バージョンアップさせていくことが多いので、設計の自動化を進めやすい利点があります。こうした作業の効率化や省力化を進める一方、他のどこにもない新たな製品や技術の企画開発に時間を掛けます。
―県民へメッセージをお願いします。
 谷 当社では現在、敷地内に工場や本社棟、研究開発棟など建屋6棟を新設する「本社再構築」のプロジェクトを進めています。すでに2棟の新工場が完成し、最先端の製造ラインが稼働しており、より高品質な製品をよりタイムリーに製造できる体制が整いつつあります。当社の製品は消費財ではないため、県民の皆様にはなじみが薄いかもしれません。しかし、良質で高機能な製品の供給を通じ、国内外の産業や生活の発展に寄与していきたいとの思いを全ての社員が胸に抱いています。今後もDX を生かしながら、広島のものづくりを支え、雇用面でも貢献していきたいと考えています。
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