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インタビュー
社会福祉法人FIG福祉会/常務理事
源 良友(みなもと よしとも)さん
介護記録をデジタル化し、情報共有と職員の能力アップに活用!
運営する高齢者総合サービスセンター「チェリーゴード」(広島県府中町)では、これまで紙ベースで記録していた利用者の介護情報をデジタル化し、職員の情報共有に活用しているとのことですが、どのような仕組みですか。
 職員一人一人がスマートフォンを持ち、利用者を介護するたびに「いつ、どの施設で、どの職員が、どの利用者に、どのような介護をしたか」というデータを記録しています。
 例えば食事の介助をしたとします。職員はスマートフォンの入力画面を立ち上げ、所属する事業所を選びます。自分自身と利用者の名前を選択し、主食・副食の食べた割合と水分量を入力します。特記事項があれば備考欄に書き込み、保存します。書き込んだ日時は自動で入力されます。
 音声入力にも対応しています。血圧であればマイクボタンを押しながら「130の70」と話すと「130-70」と入力されます。このようにして利用者の体温や血圧といったバイタル、食事・水分、排せつ、入浴などの介護データを各職員が入力し、蓄積します。記録した情報はクラウドで集約し、事業所の全職員で共有しています。

スマートフォンの入力画面。マイクボタンを押すと音声入力もできる(画像の一部を修整しています)
記録システムは独自に開発したそうですね。
 市販のクラウド型データベースを使い、グループ内のコンサルタント会社「チェリーゴードサービス」(広島県府中町)のスタッフが開発しました。使ったのはNIコンサルティング(東京)が提供する「nyoibox(如意箱)」というデータベースです。
 このデータベースに決める前は、市販の介護記録ソフトを何社か試しました。職員個々の介護記録をデータベース化しようとすると、全職員約300人分のID利用料がかかり、端末の初期設定まで含めるとイニシャルコスト(初期費用)、ランニングコストともにかなりの金額が予想されました。さらに試したソフトは不要な機能が多く、記録に時間がかかることも判明しました。
 「nyoibox(如意箱)」の特長は、ノーコードなのでプログラミングの知識がない人でも容易に開発できることです。入力画面はテキストボックスなどの部品パーツをドラッグ&ドロップするだけで出来上がります。さらに端末はスマートフォンでもパソコンでも使えるメリットがありました。必要な機能だけを自由に設計できるため操作しやすく、導入に際しての職員のトレーニング期間も短くて済みます。
 導入コストの安さも決め手となりました。初期費用のほとんどがスマートフォンの購入代です。交代制で働いているため全職員分は要らず、最低限必要な50台ほど購入しました。結果的に市販の介護記録ソフトに比べ初期費用は5分の1、ランニングコストは10分の1程度に抑えることができました。

部品パーツをドラッグ&ドロップするだけで作成できる「nyoibox(如意箱)」の開発画面
導入までのスケジュールを教えてください。
 2022年8月から開発に着手しました。13ある事業所のうち、先行して介護老人保健施設で11月から3カ月間、実証試験を行いました。必要項目の取捨選択など浮かんだ改善点を修正し、23年5月に全施設長で使い勝手を確認しました。6月から介護老人保健施設に加え、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、グループホーム、地域密着型特別養護老人ホームに導入しています。7月中は移行期間として紙での記録も続け、8月からデジタル入力に一本化しました。
利用者の介護記録をスマートフォンで入力する職員(左)
介護情報のDX化に取り組んだ理由を聞かせてください。
 従来は職員が紙で介護記録を付け、日誌などに転記が必要な項目だけを勤務の終わりに代表者がまとめてパソコンに打ち込んでいました。そうすると、「どの職員が」「どの利用者に」「どんな介護をした」のかが明確でなく、職員の責任や仕事量がデータとして残らない問題がありました。
 今回のDX化の一番の目的は、職員の仕事量を把握し、能力向上につなげるためのサポート体制を組織として整備することです。具体的には、データベース化した個々の職員の介護記録を基に、人事考課と賞与に連動させる新しい人事制度を構築します。働きぶりに応じて給与や賞与が上がるため、職員のモチベーションアップにつながります。一人一人の能力が上がれば介護にかける時間を短縮でき、余裕ができた時間で利用者に寄り添うサービスを提供できるようになるでしょう。
―利用者やご家族にどんなメリットがありますか。
 利用者にとっては、バイタルや食事量、排せつといったご自身の介護データが漏れなく、しかもタイムリーに記録される点にあります。介護データを閲覧できたり、データをメールで送付できたりするようなシステムをこれから構築すれば、希望するご家族に情報を共有することも可能です。現在も必要な情報は随時ご家族にお伝えしていますが、システムがあれば、職員を通さなくても、ご家族はいつでも欲しい時に情報を得ることができます。23年度中には構築する予定です。
―導入に際し、職員の反応はいかがでしたか。また、職員が使いやすいよう工夫した点はありますか。
 各事業所から意見を集める中で、「なぜこんな面倒なことをする必要があるのか」といった声がよく挙がりました。まずは施設長とリーダーに対する説明会をそれぞれ開き、今回のDX化の目的やメリットを丁寧に話しました。説明会の内容は全て議事録に残して全職員に開示し、その上で不満があれば、リーダーたちが個別に説明し、納得して使ってもらうよう流れを整えています。
 職員が使いやすくするため、一連の入力方法を教える1分半ほどの動画をつくり、スマートフォン上で公開しています。職員から出た質問はQ&Aとして残し、全員で共有しています。介護記録の入力方法は簡単で、新人でも覚えるのに1週間もかかりません。慣れれば1回30秒ほどで入力し終わります。
 ただ、20人いるカンボジア人スタッフの話す日本語は、音声入力にうまく反応しないようです。そのため、彼女たちの記録は一緒に働く職員が代わりに入力するなど、カバーし合っています。
入力方法を教える動画の一場面(画像の一部を修整しています)
―介護業界でDX化を図る上で、留意していることはありますか。
 DXを取り入れる企業は一般的に、作業の効率化を目的とします。事務作業には向いているものの、介護業務で効率化を図ろうとした場合、介護の質を上げずに業務の量だけを減らすと、職員の能力低下につながりかねません。今回のDX化に際し、我々が職員の能力を上げる(生産性を上げる)点を重視したのも、その理由からです。職員の能力アップによって仕事の生産性を上げ、利用者によりよい介護サービスを提供します。
社会福祉法人FIG福祉会ホームぺージ:https://www.fig-g.jp/

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