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インタビュー
株式会社たびまちゲート広島/代表取締役社長
佐々木 伸二(ささき しんじ)さん
被爆前後をVRで再現 平和の大切さ発信
―「被爆時の様子を仮想現実(VR)で体験しながら平和記念公園(広島市中区)を巡るツアー」はどういうサービスなのか教えてください。
 平和記念公園レストハウス発着のガイド付き平和コンテンツで、「PEACE PARK TOUR VR(ピースパークツアーVR)」として、2021年8月にスタートしました。建設会社のフジタさま(東京)や東京大学バーチャルリアリティ教育研究センターさま(同)などと、共同開発によって制作したVR映像を使って、弊社がツアー運営を行っています。
 平和記念公園を巡りながら、原爆ドームや相生橋、元安橋など5カ所のポイントで、ゴーグルを着けてVRを視聴していただきます。VRでは、被爆者の証言や過去の写真の史実を基にした映像と音声で当時を再現しており、被爆前の街並み、焼け野原になった被爆当時、現在に至るまでの道のりをタイムスリップしたように疑似体験できます。ツアーの所要時間は約80分で、1人でも参加できますし、団体用ツアーもあります。

被爆当時を再現するVR
 最大の特徴は、実際に見える現在の風景と被爆当時の風景を重ねて見られることです。通常のVRは室内で利用するものですが、このツアーは、屋外の各ポイントに立って見える景色とゴーグル内の情景と角度が一致し、被爆前と現在の街の姿を行き来できるので、よりリアルに感じていただけると思います。
屋外で利用 時代を超えて重なる風景
ピースパークツアーVR 概要:https://online.tabimachi-gh.co.jp/tourID489/

―DXに取り組んだきっかけと、VRツアーを開始するまでの経緯を教えてください。
 2020年7月から弊社がレストハウスを運営することになり、新たな観光商品の開発に取り組んだことがきっかけです。これまでは旅行会社として広島の方々を送り出すことを主軸に事業を展開してきましたが、これからは広島に来られる方々に向けた商品やサービスも必要だと考えました。そこで「平和」というキーワードの下、レストハウス発着のガイドツアーを開始しました。そのときは、VR付きではありません。
 ただ、平和をコンセプトにしたガイドツアーは他にもありますし、何か特徴がほしいと検討を重ね、多方面の意見を聞こうと、さまざまな会合に参加するなどして模索していました。そういう中で、被爆前後の映像の活用を考える協議会に参加していたフジタさまと縁ができて、VRを利用したツアーを共同で開発することになりました。長年、語り部として被爆の実相を伝えてきた被爆体験証言者が減少している中、DXを導入することで、歴史継承につながればという思いで取り組みました。
 VR機器の技術面はフジタさまが担当し、弊社は、どこでVRを見せて、どんな映像を流すか、そのときガイドはどういう案内をするかといった運用面を担いました。1年かけて、VRコンテンツを作成し、ピースパークツアーVRをスタートさせました。


―利用状況は。VRを利用しないツアーと比較した反応はいかがでしょうか。
 これまでに、個人、団体で1000人を超える方々に体験していただきました。団体での利用は、経済団体や国連関係、米国の大学のほか、広島に本社を置く会社の新人研修などにも利用されています。
 参加者からは、「リアリティーを感じた」「これまでの平和学習とは違う」などの反応や「追体験することで原爆と復興への捉え方が変わった」という意見が聞かれました。
 VRを利用しないツアーと比べると、「360度のカラー映像で体験するので、当時の広島に没入できて、主観的に感じることができた」といった声が寄せられました。
360度のカラー映像でリアル体験


―広島市で5月に開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)の期間中、取材拠点となった国際メディアセンター(中区)ではVR体験ができたそうですね。どのような感想が聞かれましたか。
 センター内に半球ドーム型スクリーンを設置し、VR映像を映し出すとともに、ショートバージョンのVRを体験していただきました。各国のメディア、政府、自治体職員の方々から、「ストーリーがあって素晴らしい」「核を使わない、平和の大切さを伝える大事なプロジェクトだ」「将来のリーダーとなる子どもたちに見せるべきだ」などの感想が寄せられました。
 このほか、被爆前後の広島を表現したVR映像の短縮版を動画配信サイトYou Tube(中国新聞社)でも期間限定で公開しました。VRツアーは観光客の利用が多いのですが、県民の方にも触れていただくよい機会になったと思います。


―VR導入を実現するまでに苦労した点はありましたか。今後さらに改良したい点はありますか。
 VRコンテンツの作成では、「何を感じていただくか」というコンセプトを固める部分で試行錯誤を繰り返しました。被爆の悲惨さを表現するだけではなく、被爆前にも広島の人々が暮らす日常の街の姿があったこと、被爆3日後には一部区間で路面電車が走ったことなど、広島市民の力強さを映像に落とし込みました。それらを一連の流れとして体験していただけるストーリー性のある内容に仕上がったので、全国の方はもちろん、広島の方にも見ていただきたいですね。
 今後は、対応言語が日本語と英語の2カ国語なので、世界中の方々に体験していただけるよう、言語数を増やす検討に入っています。
 また、VR映像のブラッシュアップを考えています。被爆前の広島についても深く体感していただけるよう、さらに磨きをかけたいと思っています。

―ほかにもDXを活用しているサービスがありますか。
 「デジタル3Dコンテンツin平和記念公園」です。パソコンやスマートフォンからアクセス可能な体験型デジタルマップで、レストハウスのWebサイトからも閲覧できます。広島テレビ放送さまと弊社が共催し、広島県観光連盟さまと広島市さまの協力の下、2022年3月に公開しました。原爆ドーム周辺の空撮画像に、いくつかのアイコンが表示されており、選択するとそれぞれの建物の歴史や背景を学ぶことができます。
デジタル3Dコンテンツin平和記念公園:https://noxaula.com/pub/peacepark3d/

―県民に対して、PRなどメッセージをお願いします。
 サミットは広島が世界に平和を発信できたよい機会だったと思います。県民の皆さまも「平和」への認識がさらに深まったのではないでしょうか。サミット後は、県内の企業や団体からのVRツアーの予約が増えてきており、うれしく思っています。平和を祈るだけではなく平和を考える機会になるツアーですので、大人の方はもちろん、小中学生の皆さんも、ぜひ一度参加してみてください。今後も語り継がないといけない「平和の大切さ」を考えていただく機会になれば幸いです。
株式会社たびまちゲート広島 ホームページ:https://tabimachi-gh.co.jp/



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