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インタビュー
尾道市農業委員会事務局/事務局長
市川 昌志(いちかわ まさし)さん
農地管理をデジタル化し、農業の明るい未来を切り拓く
――衛星とドローンの組み合わせによる農地管理のデジタル化「農地工作状況ソリューション」に取り組んだきっかけについて教えてください。
  私たちは毎年8〜9月にかけて市内の農地が利活用できているか、調査を行なっています。農業委員19名、農地利用最適化推進委員18名でパトロールをしており、夏の暑い時期であることも合わさり、なかなか大変な作業です。もちろん、平坦な農地ばかりではなく、中には急傾斜地があったり、有害鳥獣を入れさせないための柵が設けてあったりして、危険や手間を伴う場所も少なくありません。何とか楽に作業ができないかと思案していたところ、市内でドローンを使った農薬散布にいち早く取り組んでいる大信産業さんを思い出し、相談に上がることにしました。状況を説明すると、「ドローンに高性能カメラがついているので、一度デモフライトをしてみましょう」とご快諾くださり、一部エリアの上空を飛んで撮影してみることにしました。撮影できた画像は想像以上にクリアで、作業自体も歩いてパトロールする時の半分以下の時間ですんだので、次年度から本格導入したいと伝えると、「だったら兵庫県のサグリ株式会社さんが開発した『ACTABA(アクタバ)』というアプリがあるので、一緒に導入してみてはどうですか」と提案をいただきました。ACTABAは衛星とAIを用いて農地が遊休化していないかを解析するもので、非常に画期的なアプリです。ドローンと併せて使うことで、精度の高い農地調査が行えると考え、両方を組み合わせることにしました。
『ACTABA(アクタバ)』使用中の様子
――具体的にどのような仕組みなのでしょうか。また、導入費用に関しても教えてください。
 ACTABAは人工衛星が捉えた画像をAIが解析するアプリで、年間を通しての変化で農地の荒れ具合を判断します。例えば、春は水田の茶色、夏は稲が育った緑、秋は穂が実った黄金色などであれば、ほぼ活用されていると判断されます。逆にずっと茶色いままだったり緑のままだったりすると遊休地であると診断され、その割合は数値として示されます。私たちはこのACTABAとドローンの結果の両方を見て、より精度の高い診断を行ってきました。2021年度は実証実験、2022年度は実装という流れで、前者は220万円、後者は380万円の事業費を計上しています。しかし、どちらも「ひろしまサンドボックス事業」として行ったものだったので尾道市としての持ち出しはなく、県のほうで事業費負担をいただいています。実証実験の時には、私たちもどれほどの成果があげられるかわかりませんでしたが、信頼に足るデータとして認識できたため引き続きの実装になりました。また、AIは学習機能を有しているので、2021年度の結果をフィードバックすることで、より精度の高い診断が行えるようになりました。
「ACTABA(アクタバ)」の事務局側の管理画面
――この取り組みを行うことで、どのようなメリットが得られましたか。また、苦労された点などがあれば教えてください。
 大きなメリットとしては、大幅な時間短縮と危険の回避です。体感的なものですが、1週間かかっていたものが3日程度になり、半分以下の作業ですむようになりました。また、前述したような急傾斜地などはドローンを活用して、事故を防ぐことができています。苦労した点は、当初は画像を読み込むタブレットを使いこなせない委員が複数名いたことです。機器に対しての苦手意識から「紙地図の方がいい」という声も出ていたのですが、メンバーで教え合ったり、事前にレクチャーの場を設けたりして、使い方に慣れていきました。トラブルが発生した時は電話などでも対応し、サポートを行っています。基本的に農地パトロールは耕作放棄地率が70%以上と判断されたところを歩いて見て回るようになっているのですが、今では8割以上の委員がタブレットを活用して、耕作放棄地率が70%以上と判断された農地を歩いて見て回っています。
ドローン活用中の様子
――今後取り組んでいきたいことがあれば教えてください。また、今後の農業分野においてDXを用いることで、どのような未来を構築していきたいですか。
 まずは、ドローンとACTABAを使った農地耕作状況診断ソリューションを使いこなしていくことが目下の目標です。ACTABAを導入している自治体は全国でも複数箇所あるのですが、ドローンとの併用は珍しいのではないかと思います。そのためか、私たちがやっているこの取り組みは各所から注目され、デジタルの力を地域の課題解決や魅力向上などにつなげる「Digi田(デジデン)甲子園」にも推薦され、その時の「デジタルの日」(デジタル庁)のポスターに用いられました。また、メディアでも複数取り上げられ、遠方の自治体から多数視察に来られています。農業はかつて「3K(きつい、汚い、危険)」と呼ばれ、就労人口が少ない分野だとされてきました。少子高齢化が進む現代で、その傾向はますます顕著です。今後は、農地耕作状況ソリューションで農地のデータを蓄積して、遊休化していくのを早め早めに防いだり、農業人口の拡大や、農業規模をひろげたい人とのマッチングにつなげられるのではと考えています。また、そのほかのデジタルの力を農業分野に生かすことで、もっと楽に、楽しく農業が行えるようになるのではないでしょうか。若い人たちが、「自分たちもやってみたい、楽しそう」と感じるような未来を創っていければと思います。
デジタル庁主催「デジタルの日」にて、事例ポスターに農地パトロール調査が採用された
尾道市農業委員会事務局 ホームページ:https://www.city.onomichi.hiroshima.jp/soshiki/58/
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