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インタビュー
株式会社システムフレンド/代表取締役社長
朝山 俊雄(あさやま としお)さん
関節可動域測定装置「Mobile Motion Visualizer 鑑AKIRAⓇ」の
リハビリの現場への活用を目指して
―関節可動域測定装置「Mobile Motion Visualizer 鑑AKIRAⓇ」とは、どのような装置なのでしょうか。
  「Mobile Motion Visualizer 鑑AKIRAⓇ」(以下、鑑AKIRA)は、2013年から開発を手掛け、2016年から販売している関節運動テスタです。患者が機器の前に立つと、非接触で肩や肘、膝、足首などの表面形状を計測して、仮想マーカーを自動的に付与します。体を動かしたときのマーカーの軌跡を記録し部位ごとに可動域を計測したり、上下左右と視点を変えながら、直感的なビジュアルで再生したりすることができます。これまでも動作をデータとして記録する装置としては、映画製作などでモーションキャプチャーに使われる高精度なものがありましたが、価格が高い上に、体にたくさんのマーカーをつける必要があり、医療現場で使うには適していませんでした。
関節可動域測定装置「Mobile Motion Visualizer 鑑AKIRAⓇ」
―開発に取り組まれたきっかけについて教えてください。
 始まりは、モーションキャプチャーの技術を利用した書道アプリ「AIR SHODOU」でした。これは、当社のエンジニアと広島のいろいろな会社のメンバーたちと一緒にサークル活動的に作成したものでしたが、クオリティが高く各界の注目を集めました。その結果東京大学21世紀医療センターの先生から、モーションキャプチャーを利用したリハビリ支援システムを作りたいというご相談をいただき、プロトタイプを作成することになりました。その後、地元商工会のイベントで知り合った西広島リハビリテーション病院の院長先生にそのプロトタイプをご覧いたただいたことが鑑AKIRA誕生のきっかけになりました。
 最初は片麻痺支援システムとしてプロトタイプを作成しました。ただ、治療を行うソフトウェアを医療機器として販売することはハードルが高いため、まずは計測する装置として販売できるように開発したものが、鑑AKIRAです。
 もともと当社は、システム開発を行ってきた会社であり、データを処理することは本業です。エンターテイメント系のVRやARの仕事では3Dデータの操作も行います。当社のようなIT企業が持っている技術を、医療現場に生かせる場面があるはずだと考えていたところに、幸運にもニーズを持つ医療関係の方と出会いました。
 現在、要介護となる単一の原因としては認知症が最大ですが、高齢による衰弱や骨折・転倒、関節疾患、脊髄損傷など、運動機能の問題や衰えに関連する原因も、合計すると4割近くになっています。これを抑えるためには、比較的若い頃から運動機能を維持する対策をしなければいけないということで、日本整形外科学会が「ロコモティブシンドローム(骨・関節・筋肉・神経などで成り立つ運動器の障害により立ったり歩いたりするための身体能力が低下した状態)」という概念を提唱し、啓蒙活動や各年齢での運動機能のデータを集める活動をされています。そのような状況を知るにつれ、私たちの技術や取り組みが超高齢化社会で必要とされるものなのだと認識するようになりました。
正面から計測したデータを三次元表示で視点を変更して再生できる
―開発にかかった費用を教えてください。補助金などは使用されましたか?
 2014年から「ものづくり・商業・サービス革新事業」、「ひろしま医療関連産業創出事業」など1600万円くらいの補助金をいただいています。開発費は追加機能も含めて10年間で1億5000万円程度です。2016年から販売を開始し販売実績85台(1台あたり250万円)、追加機能の販売も含めて2億5000万円程度の売り上げがありますが、コロナ以降、病院と連携が取りにくく苦戦しています。
―実際に鑑AKIRAを使用した方から届いた声を教えてください。
 鑑AKIRAのような製品はこれまでリハ室にはなかった製品であり、まだ臨床の現場でどのように使えるのか試行錯誤が続いている段階です。ですが、大学など研究機関では手軽に使えるためこれまでに取ることが難しかったデータを集めることが可能であるという点が高く評価されています。
たとえば、人工関節の術前・術後で患者が平均してどれほど歩行が改善するのか、データを集めることは実はそれほど簡単ではありません。患者に計測のための場所に来ていただいて、何人かのスタッフでストップウォッチやメジャーを使って計測することになります。そのため同じ条件で計測されたある程度母数の大きいデータを集めることには大きな労力が求められます。しかし鑑AKIRAであれば、診察室で歩くだけで歩行速度だけでなく、左右両方の歩幅なども含めて計測できます。これは治療ではなく研究ではありますが、このような手術によってどの程度改善するのか客観的なデータが得られ、学会にて発表されています。
 他の先生方からも、鑑AKIRAを活用した研究の論文が著名な学会誌に採録されたといううれしいご報告を何件かいただきました。
 DXはまずデータを集めるところから始まり、そこから分析や成果につながっていくことになりますが、鑑AKIRAによってこれまで集めることが難しかった特定の疾患の患者の運動についての客観的なデータが集められるようになっています。
機器の前に立つだけで計測が開始できる
―研究以外では、どのような課題に対してマッチングしているのでしょうか。
 運動の計測という用途で、デイサービスなどでもお使いいただいています。介護予防や運動器機能向上のために体力を測定する必要があります。厚労省では5m歩行や開眼片脚起立など計測するべき運動をいくつか推奨しており、通常はスタッフがストップウォッチ片手に計測しています。手間もかかり、正確な計測は案外難しく、手書きでメモしてパソコンに転記するため間違いも起きやすいです。その点鑑AKIRAであれば、計測は自動で行い、転記の必要もなく、記録も単なる秒数だけでなく、ビデオと3次元の動作が残ります。スタッフの皆様からは、トレーニングによってどれくらい改善しているのか説明しやすい、という意見をいただいています。
―今後の医療分野において、どのようなことを実現していきたいか、またはどのような未来を作っていきたいのかを教えてください。
 鑑AKIRAの名前には「自らを鑑みる」という意味があります。本来はリハ室で、患者が自身の動きを見て行っているリハビリの意味を考え、治療に役立てていただくことを願っています。鑑AKIRAの最初のプロトタイプは画面を見ながら一人でリハビリできるソフトウェアでした。前述のとおり一人でリハビリする医療機器は医学的な検証のためのハードルが高く断念しました。
 しかし、鑑AKIRAの販売を通してリハビリ現場の意見をお聞きすると、患者が自分の動作の状態を正しく理解し、リハビリで行う動作の意味を理解するということにもニーズがあると感じました。鑑AKIRAを使って自分の体の動きを前からも側面からも、常に自分の姿勢を意識しながら動作できることは、患者のメリットになると思います。コロナ禍で予定より3年ほど遅れてしまったのですが、これから病院の先生方にご意見を仰ぎながら、活用方法の拡大にチャレンジしていきたいです。
株式会社システムフレンド ホームページ:https://www.systemfriend.co.jp/
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