本文へ移動
インタビュー
広島市立北部医療センター安佐市民病院/副院長
永田 信二(ながた しんじ)さん
電子処方箋の導入で安心安全な医療プラットフォームの土台を築く
――電子処方箋のモデル事業を行うようになったきっかけを教えてください。
  安佐市民病院は、2022年5月に移転をしました。医療業界ではIT化が遅れていると言われていますが、この移転を機に当院でもデジタル化を推進していこうと以前より話し合ってきました。移転後間もなく、国の事業で電子処方箋運用開始にあたってのモデル事業が実施されることになり、当院が位置する広島県安佐地域が国からモデル地域として選定されたのが同事業スタートの経緯です。国では4つの地域を選定しており、安佐地域以外では山形県酒田地域、福島県須賀川地域、千葉県旭地域が選ばれています。モデル事業を行う地域では電子処方箋を先行して導入・運用することで、システムや運用面の検証を行うとともに、課題などを収集して電子処方箋のさらなる活用方策について取りまとめをすることになっています。安佐地域では、3月時点で当院のほか、長久堂野村病院さんと西山整形外科・胃腸科さんが電子処方箋を運用しています。(モデル地域令和4年10月開始、その他令和5年1月開始でもう全国で始まっています)
――電子処方箋の仕組みを詳しく教えてください。
 電子処方箋とは、電子的に処方箋の運用を行う仕組みのことです。複数の医療機関や薬局で直近に処方・調剤された情報の参照、それらを活用した重複投薬等チェックなどを行えるものです。電子処方箋を希望していただくには、医療機関の受付等で健康保険情報を確認する際に、マイナ保険証によりオンライン資格確認端末で選択する方法と、健康保険証の提示の際に併せて希望していただく方法があります。安佐地域モデル事業では、地域全体で導入が進むまでの間、独自の取り組みとして、かかりつけの薬局で電子処方箋申込書を受け取っていただき、電子処方箋を希望する患者さんは、申込書に氏名等を記入の上、次回診察の際に医療機関の受付等に提出していただいています。電子処方箋を発行した際は、患者さんに処方内容(控え)をお渡ししますので、それを薬局に提出していただければ調剤されます。安佐地域では、現在22の薬局が電子処方箋を運用しています。
電子処方箋受付の様子
マイナ保険証で資格確認を行い、処方箋の発行方法を選択する画面
――電子処方箋の導入で、どのようなメリットが得られますか。また、導入に際しての費用感を教えてください。
 まずは、重複投薬や良くない薬の飲み合わせをデータで確認できるので、迅速かつ安心安全な処方・調剤を行うことができます。患者さんは、自分でも過去3年分のお薬情報や診察情報がマイナポータルや電子お薬手帳アプリで参照できるようになるので自己管理に役立てることができ、お薬手帳をなくしてもお薬情報を補うことができるようになります。さらに突然の事故や災害などの緊急時、引っ越しなどで医療機関や薬局を変更した場合も、情報をオンラインで管理しているため、医師や薬剤師に必要な情報をきちんと伝えることができます。処方箋自体をオンラインでやり取りするようになるので、診察から服薬指導までをスムーズに受けられます。安佐地域では患者さんから、「医師と薬剤師と自分が同時に情報共有できるので安心」というような声をいただいています。情報はマイナポータルで確認することができ、さらにマイナンバーカードを健康保険証として利用できるマイナ保険証を登録しておけば、電子処方箋発行の引き換え番号が不要になったり、確定申告時の医療費控除が簡単に行えたりと、利便性が向上していく予定です。導入においては、病院側は電子カルテシステムを社会保険診療報酬支払基金等が実施機関となる電子処方箋管理サービスと安全に情報連携する必要がありますので、その仕組みを構築するのに480万円ほどの費用がかかりました。そのうち160万円程度を国の補助金で賄う予定です。
電子処方箋の詳細は、厚生労働省が作っているパンフレットからも確認できる
――これから電子処方箋を導入しようと考えている病院にアドバイスがあればお願いします。また、安佐市民病院の今後のビジョンを教えてください。
 院内には変化による負担への懸念もありましたが、電子処方箋を医師だけの業務とするのではなく、関係する職員でそれぞれがやることを分担して協力する形で導入を進めていきました。システム導入においては、処方箋情報等を記録するための用法マスターの整備が必要ですので、システム業者との協議は重要となります。また、職員への説明は、厚生労働省のホームページにある資料を使うなどして丁寧にすることをお勧めします。少なくとも医師、医療クラーク※、外来看護師、医事課職員は理解しておく必要があります。最も苦労したのは、検証作業です。模擬患者の使えない本番環境で検証をするため、実際に診察を受ける職員に協力してもらい、そのデータがシステムにきちんと送れているか、薬局からその情報を見ることができるかなどもチェックしました。病院だけで進めるのではなく、ベンダー企業や薬局とつねに情報共有しながら足並みをそろえて作業することが大事です。
 医療DXの必要性が叫ばれている中で、今後、電子処方箋のような仕組みは、安心安全な医療プラットフォームとなり得ると考えています。高齢化がますます進む中で、地域の医療連携はこれからもっと必要です。かつては病院完結型と呼ばれ、病気になって病院で治療する、その後自宅に戻るという流れだったのが、病気になる前に予防したり、病気になっても在宅で治療を受けたりするといった選択肢が重要視されてきます。医療機関、薬局、訪問看護師やホームヘルパー、ケアマネージャーといった人たちが連携して、医療と介護を二本の柱にしたシームレス(切れ目のない)な医療の提供が期待されています。また、働き盛りの人たちの健康チェックも大切です。定期健診等にきちんとかかり、早期発見早期治療を心がけてほしいです。当院でも、ある健診センターと連携して、要精密検査が出た場合にそのまま検査の予約ができる仕組みを構築しました。これにより、以前は一度診察してから検査のために再度来院だったステップを短縮し、診察なしですぐに検査ができる体制が整いました。これからも、医療業界を取り巻くさまざまな課題を解決できるよう、多方面でDXを進めたいと考えています。

※医療クラーク 診断書や主治医意見書等の作成等の医療関係事務を処理する事務職員
広島市立北部医療センター安佐市民病院の外観
TOPへ戻る