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インタビュー
株式会社アスカネット/フューネラル事業部 プロダクトグループ 企画開発室 マネージャー
青砥 剛(あおと ごう)さん
テクノロジーを駆使し葬儀業界で新たなビジネスモデルを創造
――遺影写真を画像処理してデジタル化する事業に取り組まれたきっかけを教えてください。
 私たちの会社は、前身が写真館です。その経験と技術を生かし、遺影写真の加工やそれに付随するサービスを行う「フューネラル事業」、オンデマンド印刷による個人向け写真集の作成や関連するソフトウェアを開発する「フォトブック事業」、光の反射を利用して空中に映像を表示させる空中ディスプレイ技術を提供する「空中ディスプレイ事業」を三本柱としています。もともと創業者が写真加工を得意としていたことが、遺影写真のデジタル加工を核としたフューネラル事業を始めた理由です。遺影はご葬儀の場で使う大切な一枚ですが、急遽の場合もあり、前もってご準備されている方は多くありません。そのため、背景に余計なものが写り込んでいたり、ピントがぼけている写真も多く、修正の需要が非常に高かったそうです。かつての写真館といえば撮影を本業としており、修正を行うところは稀でした。そこにチャンスを見出し『アスカネット』として独立、現在は先述した三本柱で事業を展開しています。
家族写真から故人部分を切り取り背景を変更し、ピント復元技術できれいに仕上げた遺影写真
――具体的に、どのような手順で行う作業なのか、詳細を教えてください。また、サービスを提供する葬儀社やサービスを受けたお客様の感想も知りたいです。
 1993年に端末を葬儀社に置いて、無人で遺影写真の通信出力を行うことに成功しました。スキャナー、プリンター、パソコンなどを搭載した遺影写真通信出力システムと呼ばれる端末を葬儀会館に設置します。葬儀社のスタッフはご遺族からお預かりした写真をスキャナーにセットするだけで作業が完了します。その後は弊社のオペレーターがネットワークを介して遠隔操作でスキャニングし、画像処理を行って端末にリモートで送り返し、プリントアウトするという仕組みです。最速の場合、セットしてから一時間程度で遺影写真が完成するので、葬儀社の作業負担が大きく軽減され喜ばれています。今では全国約2600か所の葬儀会館から依頼を受けて、年間約40万枚以上の遺影写真を作成しています。これは実に、年間で亡くなられる方のおよそ3人に1人の割合でご利用いただいている計算になります。現在は自社で開発したクラウドサービス「アスカクラウド」を用いて、Web注文も可能です。葬儀社のスタッフはご遺族と打ち合わせの際に、スマートフォン内の故人様の画像や、現像した写真を手持ちのスマートフォンで撮影し、遺影用の写真としてアスカクラウドにアップします。端末の置いてある事務所に戻る必要すらないので、非常に効率的です。また、2020年には「ピント復元技術」を習得し、親指の爪サイズの原版でもくっきりとピントを合わせることが可能になりました。小さくてもお気に入りだった写真や、ピントがぼけているけど表情がすてきな写真など、驚くほど美しく復元できるので、ご遺族の方に大変喜ばれています。服の着せ替えや背景の修正も自在に行えるため、遺影にそぐわないような写真でも十分に対応可能です。加工技術においては、社内で定期的にコンテストを開催し技術研鑽に努めています。
葬儀社に置かれた遺影写真通信出力システム。無人で遺影写真の通信出力を行うことができる(モデルはイメージです
――そのほかに、関連して取り組んでいるDX事業があれば教えてください。
 以前に、全国の喪主経験がある方や、近い親族を亡くされた経験のある方にアンケートを行ったところ、葬儀で困ったことの1位が「関係者への訃報連絡」でした。そこで私たちは、訃報のWeb配信、弔電や供物の手配をインターネットで行えるWebサービス「tsunagoo(つなぐ)」を開発しリリースいたしました。従来の訃報は、故人がいつ、何歳で亡くなられ、通夜・告別式をいつどこで行うかを紙に印刷して、葬儀社からご遺族に渡しておりました。この訃報紙をもとに、ご遺族が関係者に電話やメール、FAXなどで連絡をするのですが、その作業は大変な手間で、ただでさえ慌ただしい葬儀の準備の際にかなりの時間を取られていました。tsunagooは、必要な情報を専用のアプリに入力し、普段から利用されているメールやLINE、SMSなど選べる方法で関係者に一斉通知することができます。さらにアプリ内には、そこから弔電や供物を注文できるシステムが搭載され、受け取った関係者はその場で供物やお花の手配、弔電の注文そして決済までをワンストップで行えます。通夜、告別式の会場はGoogleマップとリンクしており、弔問時に道に迷うこともありません。今までは葬儀社は会場や式の内容などについて関係者から問い合わせを受けたり、供物やお花の注文などの調整に時間がかかっていました。また、口頭での連絡や手書き文字での注文はヒューマンエラーが起こりやすく、大事な葬儀の場にトラブルが起きる要因にもなっていました。それらをすべて解消できるのがこのサービスであり、慣例にとらわれてしまっている葬儀業界において革命的な進歩だと考えています。さらにコロナ禍においては、葬儀を近親者のみで行うことも多くなり、そのような背景を受けてオンラインでの香典受付の機能も追加しました。葬儀に行けないけれど弔意を伝えたい関係者から大変好評で、ご遺族も誰がどのようなかたちで関わってくれたかが一目でわかり、その後の香典返しといった手続きも間違いなく行えるようになりました。
「tsunagoo(つなぐ)」を使用して作成した訃報紙と弔電
https://27900.jp/info/
――今後チャレンジしていきたいことや、将来的なビジョンをお聞かせください。
 これらも含め、私たちは「葬テック(葬儀×TECH)」をテーマにさまざまな事業を展開しています。葬テックとは葬儀とテクノロジーを組み合わせた造語で、葬儀業界にITやテクノロジーを導入して、葬儀社やご遺族の負担を減らし、ご遺族が故人様と向き合う時間をつくることを目的にしています。新たにフューネラル事業と空中ディスプレイ事業を融合させたサービスにもチャレンジしています。故人の遺影を浮かびあがらせる焼香台や、音感センサーを搭載し、おりんを鳴らすと故人の遺影が空中にあらわれる自宅用の手元供養品です。実際に我が家では後者を利用していますが、おりんを鳴らすと大好きだった祖父の写真が浮かんでくるので、子どもたちは進んで手を合わせています。父もきっと、そんな孫たちの様子を、喜んでくれているんじゃないかと思います。
 葬儀やその後の時間は、ご遺族や近しい人たちが故人を偲んで思い出に浸る大切なひと時だと思っています。私たちは、「こうでなければならない」という葬儀業界の固定観念にとらわれることなく、本当に必要とされているサービスは何なのかを見極め、新技術の融合で新しいビジネスモデルを創造し、業界のトップランナーであり続けたいと考えています。
おりんを鳴らすと故人の遺影が空中にあらわれる自宅用の手元供養品(モデルはイメージです
株式会社アスカネット ホームページ:https://www.asukanet.co.jp
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