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インタビュー
株式会社ハラダファーム本多/代表取締役
本多 正樹(ほんだ まさき)さん
衛星からの土壌診断や自動水管理システムなど、
水稲のDX化で次世代に受け継がれる産業に
―スマート農業に取り組まれたきっかけについて教えてください。
 広島県は日本の三大酒処ですが、安芸高田市高宮町は、県内一の酒米の産地なんです。ところが、広島県は農業の高齢化率が全国に比べて高く、中山間地域農業が大半で、過疎化、高齢化や非効率な状況で農業を辞めてしまう方も多くいます。当社ではそういう方から休耕地をお預かりしてお米を育てています。今お預かりしている水田が50ヘクタール(マツダスタジアム50個分)くらいあり、5人のスタッフで管理しています。少人数であるように感じるかもしれませんが、そうしないと採算がとれないんです。こうした状況の中で、「産地を守りたい」「農業を次世代につなげていきたい」「雇用を生み出したい」と思うようになりました。それには、きちんと利益を出して、農業を若い人たちが憧れる職業にする必要があります。一人あたりの作業量・作業時間を減らして、しっかり成果を出していくためには、DXが不可欠だと感じたのがきっかけです。まずはドローンが注目され始めた5年前に、ライセンスを取って使い始めました。3〜4人必要だった農薬散布が、ドローンを使うことで、2人でできます。体力的な負担も軽減できるので、これは良いと思いました。他にも農地管理アプリケーションのアグリノートを使用しています。農地の場所、品種、田植え時期等を記入することにより社内で情報共有ができます。
 効率的に作業ができ、使い方次第では結果もついてくるのでできることからスマート農業を取り入れていこうと思いました。
―現在は、広島県の実証実験に取り組まれているとのことですが、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか?
 広島県の農業におけるDX推進事業で、水稲での実証実験を当社で行っています。一つは「サグリ」という衛星から土壌診断・生育診断を行うもので、特別なものを用意しなくてもスマホやパソコンから田ごとの肥料分や窒素分がわかります。もう一つは「水田ファーモ」というセンサーで、気温・湿度と水田の水位がわかります。水田への給水・排水をスマホで遠隔操作できる「ワタラス」という圃場水管理システムも実験中です。一定の水位を決めることで、水門を自動で開閉して管理してくれて、スマートフォンで確認ができるため、圃場に行く回数を減らすことができます。その他にシステム上に田植え日を記入することによって播種日・刈取日を予測することが出来、年間作業スケジュールを構築することができる農業機械利用の最適化モデルも実証中です。
田への給水・排水をスマホで遠隔操作できる圃場水管理システム「ワタラス」
―実際に実証実験に取り組まれて、どのようなメリットを感じていますか?
 衛星からの土壌診断は、現状では栄養が足りない部分を感覚的に理解することはできても、実際に肥料を撒く機械と連動できていないのです。これが機械やシステム上で連動すれば肥料代を節約しながら効率的に施肥できるようになると感じています。当社では田植えをしながら泥中の肥料分を見て、こちらが設定した数値に近づけるように調整しながら施肥できる可変施肥田植え機を使っていますが、こういうものやドローンが土壌診断と連動できる可能性があるので期待しています。センサーや水管理システムについては、2022年3月の実証実験のスタート時には、システムを理解して活用するのに時間がかかっていましたが、今年から少しスムーズにいくようになりました。システムを活用することの一番のメリットは、ある程度水田の状況把握ができ、労働時間と作業量を削減でき、農業初心者にもわかりやすく数値化できるというところです。さらにスマホやパソコンを使って作業していることで、次世代を担う人たちが農業に興味を持ってくれたら、業界が変わってくるのかなと思います。
衛星からの情報をもとに土壌の様子がわかる「サグリ」
―導入にはどれくらいの費用がかかるのでしょうか?
 今回は実証実験なので広島県さんが負担してくださっていますが、衛星を使った土壌診断システムの「サグリ」は10アールあたり200円、生育診断無料、水田の水位がわかる「水田ファーモ」は1台2万3100円、水管理システムの「ワタラス」が1台26万8400円です。ラジコン草刈り機の「アグリア」も実証で使用しましたが、これは1台630万円と高額なので、中山間地域では広範囲での共同利用の方法が効率的かもしれません。この辺りは中山間地域なので、あぜがとても急斜面になっているので草刈りをするのが重労働なのです。この斜面に対応できる草刈り機となると、高額になってしまいます。当社では来年、一部圃場整備をする予定ですが、斜面を緩やかにするなどICTを生かせる圃場づくりを進めていこうと考えています。
ラジコン草刈り機「アグリア」
―システムを取り入れることでどのようなことが変わるのでしょうか。
 人手をかけずに利益を出すためには、実証農場としてトライアンドエラーの積み重ねを行い実績と結果が重要です。今回のようなシステムを使うことで、そこはかなり進められると思います。現在、雇用を考えていますが、これから農業を始めたいなという人には特に便利だと思います。農業は職人的な世界なので、システムがあることで初心者でも始めやすくなります。田植え機でもミッションがオートマチックに変わって、今では自動運転を取り入れられているというように、技術が進歩することで誰でも動かせるようになります。農業にも、5割くらいのマニュアルが必要だと思うのです。そのマニュアルを手助けするのがDXで、あとの5割は自分の知見を増やす行動と人の手や目によるきめ細やかな技術が必要です。自身で経験しないと、農業のベースとなる技術が身に付かないので、ビジネスとして次につなげていくためにも、そこは大切にしていきたいですね。
―今後の農業分野において、どのようなことを実現していきたいか、またはどのような未来を作っていきたいのかを教えてください。
 利益を上げるということをお話しすると誤解されることも多いのですが、農業を次世代につなぐためには利益につなげることも重要です。それも含めて、農業を若い人に興味を持ってもらえる産業にしていきたいですね。また、DXによって田舎と都会の情報格差もなくなるので、その中でも田舎の良さも発信し、外から来てもらえるような環境をつくりたいと思っています。農作業のイメージも変えていけたらと思います。まずは、最初にDXの実証実験を進めている私達の様子を見て、県内の農家のみなさんに「これは良い」と思っていただけるように、しっかり結果を出していきたいですね。
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