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インタビュー
株式会社晃祐堂取締役社長
土屋 武美(つちや たけみ)さん

デジタル技術で熊野筆の伝統を次代に継承します!
―どのようにデジタル技術を活用していますか 
 熊野筆を製造する当社は、主力商品である化粧筆の検品工程の自動化を目指しています。手づくりの熊野筆は、筆先の大きさや膨らみが微細に異なるため、熟練の職人が目視で検品作業をています。一人前の職人を育てるには時間と労力がかかる上、判断が難しい場合は良品・不良品の判定が人によって異なることもあります。そこで、人工知能(AI)による画像認識を生かして化粧筆の穂先を検品するシステムを開発しました。まず、約500本分の穂先のサンプルを360度撮影。延べ5千枚の撮影画像から不良品を検知するアルゴリズムを設定し、2020年1月に装置を完成させ、実用化に向け試験中です。 
AIによる画像認識システム
熊野筆の検品工程の自動化とは具体的にどのような取組ですか
 不良品検知装置は、化粧筆を回転させながら、内カメラが穂先を撮影。あらかじめ登録した画像データを基にAIが形状を判断します。ただ、分析時間は筆1本数秒で、職人の目視に比べ、倍近くかかります。不良品の判定精度は90前後。実用化にはスピードアップや多種類に対応できる能力が必要で、改良を重ねています。良品・不良品の判定も現在の2段階から3段階に精度を高めるのが目標。そのためには、高性能カメラの導入が必須です。将来的には、穂首の形状に加え、柄の傷を読み取る技術の構築も目指します。
      熊野筆の命である穂先は、コマと呼ばれる型を使用することで形作られますが、毛の状態により、必ずしも同じ形状にはなりません。
      コマを変えながら、形を整えていきます
情報発信にも積極的に取り組んでいます。
 デジタル技術を生かし、熊野筆の魅力をより多くの人に知ってもらおうと2021年秋、自社工場(広島県熊野町)に非接触で画面を操って筆づくりの歴史などを学べる仕組みを導入しました。プロジェクターを使い、2階の階段踊り場の壁に120㌅の画面を映写。天井に設けたセンサーで人の動きを感知し、映像メニューの選択ができます。メニューには筆づくりの工程や当社の業務を紹介するコンテンツや、好きな色を選んで絵が描けるゲームがあります。システムの導入により、新型コロナウイルスの影響で激減した見学客は徐々に戻ってきています。このほか、拡張現実(AR)技術で洗顔ブラシの泡立てを体験できるスマートフォン用のアプリも開発して好評です。
    タッチレスラクティブは筆作りをより深く知ってもらうために活用しています。製造工程以外のコンテンツも詰まっているため、
    多くの来場者が楽しく学んでいます。
―今後デジタル技術を活用して、どんなチャレンジをしていきますか?
 書筆はおよそ10種類の動物の毛を使って作られます。どんな種類の毛をどんな比率で組み合わせるかによって、膨らみの形や書き心地が変わります。デジタル技術により、毛の配合による出来上がりの変化を効率的にシミュレーションできるシステムができないかと考えています。また、色や形状、弾力の調整などの工程は職人の経験と勘に頼る部分が大きいですが、そこも数値化できれば、職人の育成にも生かせるはずです。今後はデジタル技術を使って、熊野筆の文化を次代に伝えていくことにも力を入れていきたいと考えています。
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