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インタビュー
内能美漁業協同組合/理事
川畑 将輝(かわばた まさき)さん
IoTの力で海を見える化し、牡蠣養殖の課題解決に取り組む
――IoT技術を活用したスマート牡蠣養殖に取り組んだきっかけを教えてください。
 江田島市だけではないと思うのですが、近年、海洋環境の変化により牡蠣養殖の採苗(牡蠣の幼生を貝殻に付着させる作業)にばらつきが出ていました。うまく採苗ができなかったり、その後も生育不良などが発生して、年によっては他県から種苗を購入するなどして対応していました。このままでは牡蠣の養殖産業自体が危ういと悩んでいたところ、東京大学と共に海洋研究をしていたシャープさんから、「県が行っているひろしまサンドボックス事業という実証実験の公募があるので、こちらに応募して課題解決に一緒に取り組んでみませんか」とお声がけをいただきました。その後、ほかの企業さんや団体さんも参加くださることになりコンソーシアムを結成しました。東京大学大学院の中尾彰宏先生を中心に、シャープさん、NTTドコモさん、中国電力さん、セシルリサーチさん、ルーチェサーチさん、平田水産さん、そして江田島市と私たち内能美漁業協同組合で、産学官民連携の「スマート牡蠣養殖IoTプラットフォーム」によるプロジェクト「iOstrea(アイオストレア)」がスタートしました。
ひろしまサンドボックス スマートかき養殖IoTプラットフォーム事業「iOstrea」のプロジェクトメンバーと役割
――iOstreaの内容を具体的に教えてください。
 iOstreaはラテン語で牡蠣を意味する「オストレア」に、「アイ(愛)」をつけた造語です。能美町の旧高田小学校を改修した「高田交流ぷらざ」にラボ(研究室)を設け、データの解析などを行いました。このプロジェクトは一言で言うと、海を“見える化”する取り組みです。江田島市と内能美漁業協同組合、平田水産さんは、実験フィールドの協力や支援を担当し、ルーチェサーチさんは海色変化を検知するドローンで牡蠣筏の周辺海上を空撮し、牡蠣の幼生が多く生息する場所や海流の解析を行います。中国電力さんとセシルリサーチさんは牡蠣の幼生検出技術を請け負い、NTTドコモさんは情報通信技術と海洋観測水上ブイ技術で参加して、牡蠣筏付近の水温や塩分濃度などを調べます。東京大学さんは牡蠣筏に設置した水中監視センサーで、水温や牡蠣の餌となるプランクトンの量を計測し、それらのデータ通信を行うネットワークを構築します。また、広島県立総合技術研究所さんが協力パートナーとして参加し、牡蠣養殖や水産技術に関する助言を行ってくれました。得られた情報をAIが分析して海の状態を数値化し、養殖業者がそれぞれ持つスマートフォンにデータとして送ります。漁師たちは専用アプリ「ウミミル」で情報を確認することができます。
「ウミミル」を使用して確認した水温結果一覧
――このプロジェクトを経て、どのような変化がありましたか。関わった人の声も教えてください。
 今までは、「何となく海の状態がいつもと違う」「何となく牡蠣の生育が良くない」と、漁師たちが経験や勘で感じていたことを、しっかりとデータにすることで、海の状態を正確かつ詳細に把握することができました。2018年からスタートし、実証実験は2022年3月でいったん終了となりましたが、それまで牡蠣のへい死(夏の放卵・放精期から放卵・放精後にかけ、よく成長した牡蠣ほど起こりやすいとされる原因未解明の死滅)が7割ぐらいあったのが、6~6.5割ぐらいに減少したと感じています。はっきりと採苗が安定したというところまでは結果が出せていませんが、これからもデータを蓄積することで、安定採苗・安定生育につながるのではと期待しています。漁師たちはスマートフォンやアプリを活用することに慣れていませんでしたが、このプロジェクトを通じてデバイスの活用法やIoTの有意義さを知り、今では自身のスマートフォンを使って引き続き海の状態確認をしています。これまで海に直接行って状態を見ていたものが「どこからでも見られるようになってすごく便利」という声が寄せられています。実証実験はいったん終了しましたが、これらの成果を受けて一連のプロジェクトを広島県が受け継ぎ、今では廿日市市や大竹市など、同じ問題を抱える市町でも同様の取り組みが行われています。
ICTブイで更新された水温データをタブレットで確認している様子。水温を確認することで、カキの育成状況を予想したり、へい死を防ぐことができる
――IoTを活用することで、漁業の未来はどのように変わっていくとお考えですか。
 牡蠣養殖を含む漁業は、自然相手の産業です。漁獲や生育状況、海洋環境などを読み解く力はこれまで漁師たちの経験に委ねられていましたが、これからはデータ化することで、誰でも確実にその能力を得ることができます。海の仕事は休みも少なく、体力面できつい部分もあり、若い人の就労が年々減っています。資材等の高騰も見られる中で、いかに作業効率を上げて収益化していくかは、最も重要な課題だと考えています。牡蠣養殖は広島県においても大事な一次産業だと思いますので、今後はIoTの力で牡蠣養殖業の拡大を図り、人手不足や後継者不足の解決につなげていきたいです。そして今回、さまざまな団体さんや企業さんの知見や技術をお借りすることで、自分たちだけでは到底成しえなかった海の課題解決に切り込むことができました。若い世代は私たちよりも随分ITリテラシーが高いだろうと考えられますので、今後も色々な機関と連携を取りながら、明るい牡蠣養殖業の未来を築いてほしいと願っています。
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